Vol.8報告(2/2)―Twitterゆかりのゲスト達がソーシャルメディアの道筋を語り合った

引き続きUSP MAGAZINEまつうらです。TechLION Vol.8の報告後半しゅっぱーつ!前半をご覧になっていない方は是非読んできてください。

今回のTechLION第二部はTwitterゆかりのゲスト達を招いてTwitter談義をするという、Twitter祭りを開催しました。それぞれに人生あり、ノウハウあり、考え方あり、そして思い描く未来あり。たかがTwitterでは終わらせられない深い話が多数飛び出しました。

Twitterゆかりのゲストお三方

本日のかんぱーい!申し遅れましたが第二部のサブタイトルは「ジャングルバス.com」。Twitterについて、開発者目線、ユーザー目線で熱く語っていただくわけですが、まずは第二部から登場したゲストをご紹介。

とその前に、第一部でやり忘れていた本日の乾杯を出演者+ゲストみんなでしました。

かんぱーい!

そして、LT風にお三方が順番に自己紹介。

ユーザー代表 高橋真弓@Six Apartさん

高橋真弓@SixApartさんMovable Typeで有名なSixApartで広報とマーケティングをなさっているという高橋さん。Twitter上では、 @mayumine(本人)、 @sixapartkk(会社)、 @tophlove(「トフ」という会社のマスコット)、の3種の人格(1つは動物?)を使い分けているそうです。本人はもちろん本人、会社は会社らしく清廉潔白に、トフは「トフ」しか喋れないアカウントだそうです。(我TechLIONにもてっくんというマスコットが……) またURAMAYUというブログを書いているブロガーでもあり、GIZMODO JAPANNAVERまとめ等もなさっているそうです。

Twitterで一番印象深い出来事は2009年、国内のTwitterの盛り上がりもあってニュース番組ワールドビジネスサテライトで会社が取材され、こともあろうに酒が入った状態で受けたインタビューの様子がオンエアー。でもまぁそれはチャンスとばかりにブログに記事を書いたところ、放送から1週間でフォロワー数が2000~3000人増えたということがあったそうです。

開発者代表 藤川真一(えふしん)さん

藤川真一(えふしん)さん現在F’s Garageというブログを運営中。

2007年4月、日本のTwitter黎明期。会社員をやりつつ日本初の携帯電話向けTwitterクライアント「movatwitter (現モバツイ)」をリリース。

当時はまだ日本にiPhoneが無かった頃であり、数少ないモバイル向けTwitterクライアントとして支持されたことや、2009年に国内でTwitterがブレイクしたことも手伝って、最終的に160万ユーザーを抱えるまでに成長したそうです。

2010年にこれを運営するための会社を設立(その話は自伝として本にもまとめたそうです)、業界がスマートフォンへシフトする中でスマートフォン向けクライアントもリリースしましたが、今年5月、熟慮の末に会社を売却して現在に至ったといいます。

開発者代表 山本裕介さん

山本裕介さんジュノンボーイにも同姓同名の方がいたりしますがあちらは俳優界のイケメン、山本さんエンジニア界のイケメン。二児の父で、実はイクメン(育休中)でもあります。

コンピューターとの出会いは、ファミコン買ってとせがむ兄に与えられた MSX1。そしてBASIC・Z80マシン語から手を染め(筆者はここに感動ですよ!)、Pascal, Fortran, Java, C/C++  と様々な言語を使いこなせます。

2007年、Java向けのTwitter API、Twitter4Jを制作。仕事面では、エンタープライズIT系企業を経て、RedHatでオープンソースの世界を垣間見つつ、先程のTwitter4Jも相まってTwitter APIポケットリファレンスを執筆。そんな実績がTwitter社の目に留まり、オファーを受け、Twitter Japanでデベロッパーアドボケイト(開発者支援役)として働き始め、大規模Webシステムを学んだそうです。

Twitter座談会:

以上のお三方+第一部に引き続き砂原先生と、司会の二人(馮P&法林GM)の計六人でTwitter座談会スタート。かなり要約してしまっておりますが、以下、会話形式でお送りします。

Twitterにまつわる人生の変遷

: 一度Twitterをテーマとしてやりたいって思っていました。そんなわけで今日お三方をお呼びしたのですが、気付いてみればえふしんさんと山本さんはお呼びした後、ポジションが変わっていてあれ?みたいな。えふしんさんはどのくらいのタイミングでバイアウトを考えていたんですか?

えふしん: バイアウト自体は今年の頭くらいですね。2010年設立のマインドスコープの役割はTwitterから離れることだと思ってました。(黎明期を支え終えて)ご苦労さんって言われて会社が潰れちゃうのはリスクですから、それ以外の柱を持たなきゃいけないっていうのがありましたし。

: ご自身で何か新しいものを創りたいとか思いますか。

えふしん: まあ……明確にやりたいものがあればマインドスコープで行ったと思うんですが、そういうことではなくて一からやり直そうと。これまで5年間ずっとケータイ中心で、ケータイもだいぶレガシーになってきてますし。

: 山本さんはどういう経緯で?

山本: 僕はやっぱデベロッパーアドボケイト(開発者を支援する役)なんですよ。WebのAPIを使っていろんなサービスが広がったら面白いなあと思うんです。それでTwitter4Jも作って。アプリをやりたいなと思うこともあるけど、Twitter4Jなんかにもいっぱい要望が来て忙しいし、やっぱAPI面白いし。
そんな感じでフリーランスやりながら本書いたりして頑張ってた時、Twitter社から声が掛かって、それで給料貰えるならいいかなと思って。でも次第に、本国に来て開発を……という流れになり、それもちょっとやりたいことと違うなとモヤモヤしてきました。既に僕には家族もいますし。それでイクメンしながら好きなアプリケーション作って飯食えたらいいなって思ったんです。

: Twitterが登場した2006年からたかだかこの5,6年でこれだけ人生が変わるような出来事が起こるんですね。高橋さんは昔と今で、使い方変わってきてたりしますか?

高橋: 当初は友人とのコミュニケーションツールとして使っていたんですけど、フォロワーが増えてきて、最近はあんまりプライベートなつぶやきとかしなくなっちゃいましたね。Twitterは情報発信系に、そしてプライベートはFacebookに。

法林: Twitter自体があまりアクセス制限の仕組みとかないですよね。だからプライベートなことには実はあまり向いてないという。

Twitterを如何なるツールと捉えるべきか

山本: Twitter社自身も「TwitterはSNSではないですよ」と言ってます。SNSの括りに入れられたりしますけど、ソーシャルグラフではなくインタレストグラフなんだと。片思いできるのが特徴ですからね。

(編注:このあたりで山本さんが、#techlionのタイムラインをリアルタイムに舞台のスクリーンに表示するという計らいを……。すると!観覧者から多数の静かなツッコミが入っていたことがあらわになり、その後も激しいツッコミの応酬に……)

#techlionハッシュタグタイムライン1砂原ミクシィは完全に閉じてて、Facebookは何となくコントロールできてて、Twitterは完全にオープンで、僕は書きかけて消すツイートが最近結構あるんだよね。一般的な例えで言うなら、「原発賛成!」みたいなのとかね(飽くまで一般例だからね!)。
慎重に言うべきこともあるだろうけど、でもあえて言わなきゃならないこともあると思うんだよね。そういうのって何か意識してる?

高橋: 少なくとも酔っぱらってる電車の中では投稿しないっていうルールを作りました(笑)。

砂原: そう、人によっては酔っぱらってる時ずーっとツイートしてて「こいつ大丈夫か?」って思う奴もいるし、何もわからないこどもなんかもそうだし、でもわかってて意図的にやってる人もいるんだよね。
ここらへんのバランス感覚をどう考えてますか。こどもにTwitterという道具を与えるとしていつなら大丈夫かとか。

観客からの静かなツッコミの応酬山本: うちの子は既にデジタルネイティブ世代ですねー。テレビをタッチして「これもう一回再生しろ」みたいな(笑)。 いつからTwitterをっていうと、もう生まれる前から専用のアカウントを持ってやってます。「生まれたよ」とか。

高橋: 大人になったらそのアカウントをお子さんに明け渡すんですか?

山本: 本人が嫌がらなければ。もしかしたら「ざけんじゃねー」とかいって最近出た全削除ツールで消されるかもしれませんが(笑)。
それで僕自身としてツイートする時は、今はTwitterの中の人としての発言になってしまうのでそこはやっぱり社内のレギュレーションとかありますね。 指針としては、競合他社に関して発言するときは批判的なことは言うなとか。

#techlionハッシュタグタイムライン2えふしん: Twitterは「つぶやく人が放送局になれるのが素晴らしい」と言うんだけど、「有益な情報を発信してフォローしてまじめに使いましょう」って言っても普及しないんですよ。Twitterのつぶやき欄に“What are you doing?(今何してる?)”って出てくるけど、日本人にとってみれば結局何を書けばいいのかわからないですから。逆にたからこそ、ギーク達が独自の使い方を産み出して、これ面白いじゃんといって普及していったと思うんですよ。そうしてやがて有名人の情報拡散装置になったり、バカ発見器になったりしていったと。

えふしん: 震災とかの有事の時にネットワークとして使うっていう考えもあるけど、例えば「僕は無事ですよ」とつぶやいたって相手が見てなきゃ伝わらないんです。Twitterって要するに、日常のどうでもいいようなところで使われているからこそ価値があって、だからミクシィなんかとも使い分けられてきたんですよ。みんなそんな有益なことできないですもの。無駄を許容したところが、設計的にTwitterが偉大だったところですよ。

クジラ(高負荷)に見る、Webの設計思想

砂原: 3・11の時にさぁ、Twitterでクジラ出なかったの何でなんだろう思わない?あの時にクジラ出てたら、震災の時Twitter使えるなんて誰も言わなかったでしょ。

法林: クジラってあの、Twitterが処理しきれなくてサーバーが落ちてる時のアレね。

砂原: あれ、裏ですごかったでしょ?俺もちょっとその話聞いたんですよ。そういう事って知らないじゃん、みんな。だけどそういう事を知ってもらうことによって、例えばサーバーの仕組みは本当にこれでいいのかとかそういう話ができるんだよ。ごめん、話を遮って(笑)。

ぶっちゃけバルスの方が大変ですよ山本: 震災発生当時はやっぱ大変でしたね。でもぶっちゃけ「バルス」の方が大変だったですよ。

: モバツイなんかもあの時落ちないようにされたんですか?

えふしん: やっぱあの時はひたすらサーバー増やしましたね。都会でも帰宅困難者がいっぱいいてケータイ使いましたらからね。サードパーティの役割としてやっぱ落としちゃいけないなって。あの時は利益度外視でしたね。テレビも広告一斉に消えましたし、メディア全体がそうでしたから。

: 山本さん、改めて伺ってみたいのですが…

山本: (編注:この時ツイートしていて端末いじり中だった)あ!はい。技術的な観点で僕は学ぶことがいっぱいありました。最初エンタープライズ畑にいたのでそことはだいぶ考え方が違うんだなと。Webは絶対落ちちゃいけない、じゃなくてとにかくできる限りサービスを継続することが大事っていう。そこはアーキテクチャもよく考えられてるなと思いました。
例えば、ツイートは受け付けるんだけども、非同期。すぐに書き込まないとか。あとフォロワーがたくさんいる時。一言ツイートするだけで何万人ものタイムラインに現れますけど、そこを従来のメールと同様の作りにしていると全然追いつかない。そのために極端な話「時々失敗してもいいかな」くらいの作りをしている。そこはエンタープライズと全然違う考え方で対策をしているんです。
ホエールウォッチングそれでクジラもどんどん出なくなってきた。でも寂しいですよね。そろそろまた会いたいなーみたいな(笑)

(編注:山本さん、ここでクジラの画面を披露。これは、このURLを開くといつでも見られるという。更にクジラでないパターンも。)

観客: クジラを釣ってる鳥の数直しましたよね。偶数羽でないと釣れないはずなんだけど、最初奇数羽いたっていう。

法林: スゴいポイント見てますね!

Twitter、そしてソーシャルメディアの今後は?

: Twitter以前だと2004年のミクシィがあったり、最近だとLINEが5000万ユーザーを突破したりなど、人を繋ぐいろんなツールが登場してきました。ではTwitterの今後のポジションについて、皆さんどう思われますか?予想や意見、あるいは自分はどう付き合っていくかなど、お聞かせください。

山本: クローズドなmixi、オープンなTwitter、中間くらいのFacebookと、ソーシャルツールは一通り出てきた感はありますけど、LINEってあれはあれで画期的な気がします。電話を通じたソーシャルな繋がりっていう意味で。今後は電話帳を登録しない人が出てくるのかとか、既存のTwitterなどとどう繋がっていくのかなとか。
あと個人的にはAPI提供してくれると面白いなと。LINEの人にメール送ってみたり したいですよ。だから「よかったらLINE4J作るよー」って言ってるんですけどね。

えふしん: Twitterの最大の特徴はやっぱり140文字を守り続けることではないかと思うんです。最初電子メールが登場しましたが、その中の需要の一部にとってはそんな特徴を持つTwitterの方がより適切で移っていった。それと同じでTwitterの一部の人達にとってみると更にLINEに移る方がいいかもしれません。でもTwitterはTwitterとして、有名人とふらっと繋がるとか、ちょっとしたECがお客と繋がったり、そういうところが洗練されれば今後も残り続けると思うし、他メディアもそうだと思います。

高橋: えふしんさんの言うとおり、140文字というシンプルさだけは変えないでほしいです。300文字以上つぶやけるようになりましたとか、SNS機能が付きましたとかいったらTwitterの価値が無くなっちゃうと思います。
多分ですけど、Twitterはインフラ的な方向に寄っていくんじゃないかなと思っています。今iOSに統合されていますけど、よりいろいろな所に不可欠ものとして取り入れられる形で成長していくのかなと思っています。

: 砂原先生はどうお考えですか?

砂原:  俺は全然違う事考えててね。
いろいろなサービスが出てきたけど、それが一企業の提供するサービスである限り、その先は無いと思ってる。TwitterはTwitterの人がやるし、FacebookはFacebookの人がやるっていう……。ミクシィ、LINEもね。これを更に考え直してアーキテクチャが変わると思う。ただ通信するだけのメディアだったインタネットが今HTTP(Web)レイヤーで接点を持つ段階に上がって来たけど、将来は更にその上のレイヤーに接点ができて、そこにいろんなサービスが乱立してくると思う。

大学の先生みたいなこと言いますね法林: (ここまで全然それっぽくなかったのに)大学の先生みたいなこと言いますね。

砂原: (苦笑)でもそれができなかったら次は無いと思う。JUNET始めた時、今こんなになってるなんて誰が想像したか。その段階に来たときに、今の学生やこれからの人達がいろいろ考えてくれるはずなんだよ。えふしんさんや山本さんもたぶんそんなことを考えるから、次の展開へと足を踏み出してるんだと思うんだよね。

法林: そういう曲がり角に来ている時期なのかもしれないってことですね。

: そういった形にで積み重なっていって、5年後10年後、これまでゲストに来て下さった方達も交えてまた話をしてみたいですね。今日は皆さんどうもありがとうございました。

座談会を振り返って

会場で交わされたTwitter談義。ブログなんかじゃとても全てをお伝えすることはできませんが、他にも興味深い話、大切な話がたくさん出てきました。その補足も兼ねてちょっとだけ書かせていただきますが、今回の座談会の中で筆者が個人的に考えさせられたのは、いわゆるバイアウトの話とバカ発見器的側面の話でした。

司会の馮さんはバイアウトの話を振っていましたが、あれは、世間で思われがちな「バイアウト=勝ち組」な印象が本当にそうなのか今一度問いたいという意図があってのことでした。実際、実体験者のえふしんさんのお話を聞いた限りでは決してそんな華やかなものではないと感じました。売却して出来たお金で遊んで暮らそうなどという雰囲気ではとてもありません。そもそも価値あるサービスの創造で先行投資したぶんがようやく返ってきたとも言えるでしょうし、人生もまだまだこれから。飯を食うためにはどうしなきゃいけないか、そして一技術者として今後をどうデザインしていくべきなのか。そういったことを考える苦労は皆と変わらないのだなという印象でした。

そしてこのレポートの要約文中では用語としてはあまり出てきませんでしたが、Twitterの座談会中はバカ発見器的な側面も議題になりました。皆さんご存知の通り、ソーシャルツール、とりわけTwitterで、思わぬ失言によって地位を失墜させてしまう人が多数います。でも砂原先生もおっしゃったように時には言わなければいけないことだってあります。言うべきことを言わなければ、最近の不正コピー品ダウンロード刑事罰化DVDリッピング違法化など、異論を残したままの法案が強引に成立するといったような事態が起こってしまいます。(この法律のことについても今回触れられていました)

我々はもっと技術者としての立場から物を言わなければならないと思います。そういう意味では、まだまだTwitterをはじめとしたソーシャルツールを使いこなせていないのかもしれません。ソーシャルと繋がれるソーシャルツールを産み出したのは我々技術者なのですから、我々こそが使いこなすお手本になるべきだし、私はなりたいと思います。

ご参加ありがとうございました

Vol.8キャスト揃ってファイティングポーズ!今回のレポートブログ、大変長くなってしまいましたが、参加してくださった皆様(ゲストも観客も、スタッフも)、ありがとうございました。互いのメッセージから何かしら考えるものが得られていれば幸いです。

いつものように、記念に出演者勢揃いしてのファイティングポーズ写真を載せておきます。(お、砂原先生!気合い入ってますねー)

さて、次回は……、またまた遠征で10月4日、今度は神戸に乗り込みます!神戸は我らが司会の法林GMのホームでもありますが、神戸の皆様よろしくお願いします。ちなみに東京の次回は11月を予定しておりますので、こちらもお楽しみに。ということで、改めて次は高坂さんよろしくおねがいします。

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Vol.8報告(1/2)―はちゃめちゃトークの中に砂原流プロジェクト立ち上げ術を見た

おはようございます。USP MAGAZINE編集長兼TechLION取材班のまつうらです。TechLION Vol.8に参加なさってくださった皆様、お疲れ様でした。

こちら公式ページのレポートなわけですが、既に当日のアツい雰囲気や感動的なお話を伝えるレポートがまとめTogetterニュースサイト様等で公開されておりまして、ありがたく思うものの、まとめの巧さにプレッシャーを感じております。

では、公式として何を報告すべきか?……私は、自分で描いたこのポスターを思い出しました。TechLIONの見どころの一つは、ゲストの人間臭さが見られる点なんですよ。そこに惚れるからこそ、ゲストが言わんとしているメッセージの意味を、深く理解できるんです。だから今回は、「ゲストの人間臭さ」という切り口でこの報告をしようと思います。

メインゲスト、砂原先生が現れた

さてTechLION Vol.8の準備をしていると、本日のメインゲスト砂原秀樹先生@慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科がやってきました。Tシャツ着てます。イベント告知の段階から背中を遊び道具にしていて、ユーモアのある方だなと思っていたら、当日も背中で見せてくれました。

砂原研特製Tシャツ2012Tシャツの後ろに何か描いてある!「ん?」と思って覗き込む法林GM(ゼネラルマネージャー)。するとこんな感じになっていたんですね。(→写真)「うちの学生が作ってくれたんだよ。これ一枚だけしかないんだ」と先生。それにしても先生、満面の笑みですね

Tシャツといえば、Vol.5で来てくださったよしおかさんがプロの酔っ払い特製Tシャツを着てこられた時のことを思い出して「まさか、この展開は」なとど、脳裏に1時間少々未来の様子が思い浮かんでいましたが、いやいや……実際は想像以上でした。

 トークは終始飛ばしっぱなし!

お客さんも準備OK、3か月ぶりの東京TechLIONの開演を今か今かと待ちわびていた中、本番開始!司会者の法林GM&馮P(プロデューサー)、そして砂原先生の軽い挨拶を済ませたあと、第一部のトークスタート!

タイトルは「思えば遠くへ来たもんだ: 次の世代とともに進む未来」。では、内容を紹介していきましょう。それにしても先生、最後まで飛ばしっぱなしでした。時々エキサイトして声のトーンが急上昇。筆者は、こういうトーク大好きです。

はちゃめちゃトーク!でもそれは、マルチな実力の証

砂原先生の今の取り組みまずは自己紹介。私(先生)は何者か?もともとの専門はスパコン。それじゃ今は何やってるか……。「自動車」「救急車」…「百葉箱」あたりはでは想像付きますが、「ゲリラ豪雨」とか「女子力」とか何ですか?(それらはトークの中盤で触れられました) これは現在の話ですが、今までもそういったものを次々立ち上げてきた「立ち上げ屋」であると、自らを称してました。

そして半生を紹介。登場人物をオカシいやつだの悪人だの容赦無いうえに、自分もオカシいと言い出しました。小学生の頃に保護者面談で担任の先生は「この子は将来、博士になるか乞食になる」と言ったそうで、それ、間違ってないのが恐ろしいですね。

学生時代の話になると、日本のインターネットの父こと村井純先生がエピソードに登場します。が、悪人と呼んではばかりません。でもそれは、氏をよく知っている人に言わせれば、黎明期に一緒に日本のインターネットを創ってきた「戦友」だからこそなのだそうです。砂原先生曰く、「村井とは寝食を共にして、一緒に抱き合いながら寝た」とのこと。えー!!!

デザインもマネジメントもポリシーも、みんな通用する人材を育てよう

先生は、奈良先端大学院大学(NAIST) 先導的ITスペシャリスト育成推進プログラム(IT Keys)、そして現在は慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)で学生の指導にあたっているそうなのですが、どちらの立ち上げにも関わっているそうです。ちなみに後者の立ち上げに際しては、先生曰く「村井に『やれ!』(やってみるかではなく)と言われた」のだとか(笑)。

でもマジメな話、立ち上げて何をしたかったのか。それは、テクノロジー(技術)、デザイン(表現)、マネジメント(経営)、ポリシー(政策)、全てのセンスを身に付けた人材を育てることなのだそうです。

技術なんて教えたってしょーがない、知ってんだからそんなの。それよりも要るのはコレ(法律・倫理・経営)。つまり、「お前は悪者になっちゃいけないよ。暗黒面のフォースを使っちゃいけないんだ」って教えることなんですよ。

そんな倫理教育も然り、経営的センスも教えるそうです。

な、お前ら経営ってわかるか?
お前らが必要だと思うセキュリティの装置を入れようと思う時、それが2億かかるとする。なんで2億も必要なのかわけのわからない経営者に、「これは2億かかるんですけど、2億掛けないと18億損しちゃうんですよ」っていうような話をできるようになんなきゃいけないんだぞ。

そんな話をしようと決心したそうです。「やっぱりねえ、エンジニアってコレができないからショボいんだよ。だから搾取されんだよ」と。筆者ももっと若くに教えられたかったですね。
さらに続けます「つまりね、これらはインターネットでやってきたことなんですよ」と、

インターネットって、やろうと思ったらまず電気通信事業者法ってのが立ちはだかるんですよ。最初にモデム繋いだ時に突然NTTから電話が掛かってきて、
「この先に、電話じゃないものが繋がってるんですけど……、何ですかねぇ?」
って言われて
「ボクもよくわかりませんっ!(ガチャ★)」
とかやるわけだけど……

(編注)こういうエピソードは殆ど冗談ですからね。真に受けないでくださいよ!

僕もよくわかりませんッ!というように、時には法律を変える必要さえ出てきます。

会社作ったりとか法律変えたりとかやっていくようになった時、こういう各分野のセンスないとダメなんだよね。「だから全部教えてみよう」ってやってみたんですよ。

砂原先生のとこの教え子さん達

そして、熱心に育てていらっしゃる教え子さんたちの研究成果が披露されました。

メンバー構成

女性4割、留学生3割、社会人半数、とのことです。女性4割って技術学科では驚異的ですね。出身分野もバラエティーに富んでいて、音大卒とか美大卒とか、はたまたスタンフォード大卒業後、他からのオファーには目もくれずにやってきた学生とか。うわー、楽しそうですね。

どんな研究が……

女子力向上ミラー面白すぎてオカシすぎて(褒め言葉)詳しく紹介したいくらいなんですけど、ブログ記事もだいぶ長くなってきたので、ほんの一部をさわりだけ。

  • HAPMAP:自ら方向音痴だと公言する学生さん(美大出身)が考案。「できれば道にロープ張って案内して欲しい」との思いから、GPSや地図情報と連携するiPhoneの裏にちょっとした装置を付けて仮想ロープを実現した。
  • 女子力向上ミラー(右写真):女子力が無いと悩む学生さんが、女子力センサーを作りたいと発想。女子力という言葉が出てくるブログで併用される単語を様々分析し、女子力という曖昧な量のスケール化を実現。これに基づき製作したという。

僕の製品は、うちの学生なんだなって思った

これまで携わってきた数々のプロジェクトも、今学生さん達と共にやっている研究も、どれも基本はCyber-Physical System(=サイバー空間と物理空間(この世の形あるもの)を繋いで、何ができるかを考える)という考え方

  • インターネットにとにかく全部繋げ。
  • 情報を全部集めろ。
  • それを皆で共有しろ(ここ凄く重要)。
  • そしてみんなでアイデアを出し合って有益な情報を創ろう。
  • 楽しくやろうよ!

があるといいます。

そして最後に

だから要するに、僕の製品は、うちの学生なんだなって、改めて思ったわけです。

と結びました。くー、先生ウマくまとめたー!でも筆者も、こういうこと言ってのける先生の下で大学院生やり直したいですね。

「営業になりたくない」って言ったら負けだぞ!

トークが終わって観客からの質問の際、またガツンとくる一言をおっしゃっていました。営業になりたくないって言ってきた学生さんがいて、その時こう言ったそうです(下写真)。

営業になりたくないって言ったら負けだ!

だって自分の研究をセールスできない瞬間に負けだろ?営業ができないんだから研究もできないんだよ。

そうなんですよね。人に自分の研究の意義を説明できなきゃ予算が貰えず研究活動が続けられないですし、そもそも自分が何を研究しているのか整理できていないのかもしれず、そういう意味でも続けられるのか怪しいもの。今思えば、「二位じゃだめなんでしょうか」発言で有名な事業仕分けによってスパコン予算が減らされた時も、あれはある意味負けだったのではないかと筆者個人は考えてしまいます。

◇ ◇ ◇

砂原先生。一聞するとはちゃめちゃ言っているように聞こえる部分もありますが、思い返せばそこで語られたエピソードはどれも絶妙なバランス感覚で首尾よく歩んできたことなんだなと気付かされました。

一方あえてはちゃめちゃなジョークを飛ばしている部分もありますが、それも含め、経営者や政治家達と上手に渡り合いながら日本のインターネットを創ってきたのでしょう。

その教えを受け継いだ学生さん達は、これからどんな未来を創っていくのか。ちょっと羨ましいです。(あっ!今、私の背中にKMDの入学案内パンフレットを貼らんとしている先生の気配がっ!……ちなみに学費は年間200万円だそうです)

先生ありがとうございました。(第二部もよろしくおねがいします)

というわけでVol.8報告は、次回「後半」に続きます。
近日中に「後半」記事を追加した後、高坂さんにバトンタッチ!

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俺の脳裏にマーキング。

おはようございます。USP MAGAZINE編集長のまつうらです。

突然ですが、ネットサーフィン中に面白い写真を発見してしまいました。その写真を見た瞬間、TechLIONポスターの絵柄が脳裏に浮かんでしまったので、作ってみてしまいました。ふんだんに趣味です。:-)

では、さっそくどーぞ!
TechLION Vol.8ポスター

どーです、それっぽくありませんか?でも、キャッチコピーに「マーキング」とか。あぁ、マジメに宣伝している他のスタッフから石を投げられそうです。(キャー!ごめんなさい)

なんでこんなものを……

ネットサーフィン中に見つけた画像というのはこちらなんです(ご好意で画像の使用許可がいただけました)。それで、

ライオンといえば百獣の王で貫禄あるイメージだけどネコみたいに伸びしてるよ、珍しいなぁ。いや、動物園に行けばよく見られるシーンなのかもしれないけど……

なーんて考えてるうちに、「あぁ!TechLIONの魅力ってコレだったんだな」ってハッキリわかりました。

実は、大変申し上げにくいのですが……当初は仕事で参加というだけであまり関心無かったんです。でもそーやってステージを間近で見たら……、確かに面白い!これは私だけかと思っていたら、参加した某ゲストまで似たようなこと言っていたのですよ。

ためになる話が聞けて面白い。でもそれは各種メディアのレポートでも読める。じゃあ会場での観覧はそれらと何が違うのか。って考えると、ゲストが飛ばすジョークや醸し出してる雰囲気、しぐさ、さらには予想もしなかったハプニング、こういうのがカットされることなく全て見えるのがポイントなんですね。これらはトークの本題とは違うんですけど、そういう人間味溢れる様が全部見えるからこそ強く記憶に残るんですね、不思議と。

で、わざわざ会場へ足を運んでくれる人々は、そのことが無意識に分かっている。ためになる話を強く心に刻むため、ゲストの人間臭さを脳裏にマーキングしにやってくるんだ、と。

そんなわけで、コピーライターごっこをしてみました。PhotoshopやIllustrator使ってるとだんだんそれっぽい絵になってくるし、リード文を付けるとさらにそれっぽさに磨きがかかってきて、気が付けば週末がそれで終わっとりますよ。何やってるんだか……

最後に、「USP MAGAZINE Vol.5もよろしくお願いしますねー」と宣伝しときます。

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TechLIONvol.7報告―名古屋へ遠征!名古屋人の「なごやこわい」行動力に圧倒されてきた!

こんにちは。USP MAGAZINE編集長のまつうらです。

これまで一度だけ大阪に出張したことのあるTechLIONですが、今回再び遠征です。場所は名古屋……。これまた大阪とは違う意味でスゴいのです。出演者は勿論、参加者も皆アクティブ。これが「なごやこわい」ってヤツなんでしょうか?では、5/14(月)開催のVol.7レポートをお届けします。

会場の名古屋GeekBarは満員御礼

所狭しと集まったGeek達、おかげで満員だ(来場ありがとー!)
満員だ(来場ありがとー!)
名古屋のGeek達の隠れ家「名古屋GeekBar」
名古屋GeekBar

今回おじゃましたのは名古屋の繁華街、栄(新栄)にある名古屋Geek Barさん。普段はピアノバーとして開いているお店なのですが、月曜日だけ名古屋ギーク達の隠れ家に変身するのです。今日は、エイチームの有志の皆さんはじめ、こちらを根城にしている地元ギークの方々の手引きでやってきました。(ありがとうございました)

開場前から今か今かとオープンを待つ参加者の皆さんが詰めかけ、開場の7時になるとあっと言う間に満席に……。その勢いに、始まる前から驚かされました。美味しい料理も酒もスタンバイしてTechLION Vol.7スタート!

ある意味予想通りな濃いゲスト様方

司会はこの二人(ゼネラルマネージャー法林&プロデューサー馮)
法林GM&馮P

さーて始まりましたTechLION Vol.7。司会は法林&馮コンビです。この度それぞれ、ゼネラルマネージャー(GM)とプロデューサーに就任したらしいですが、いつもの二人ですね。

さて今日はどんなトークが飛び出すことやら……。と、その前に。今日は名古屋側スタッフとしても尽力してくださったエイチームさんから来場者に萌えサプリのスペシャルプレゼントが。これで栄養補給して今夜も乗り切れ!というわけですね。ありがとうございます。

ステージには一人目のゲストを向かえ、まずは「かんぱーい!」 グイっと飲んで、さぁトークの始まりです。

Aチームさん差し入れ「萌えサプリ」(ありがとー!)
萌えサプリ
みなさん、かんぱーい!
かんぱーい!

#1 矢島卓さん―ケータイエンジニアよ、取り残されるな!

矢島卓さん(きんちゃんって呼んでください)まずは矢島卓@エイチームさん。自己紹介を始めるなり「きんちゃんと呼んでください。はい、せーの」と。いきなり飛ばしてました。題目は「【ザックリわかる】モバイルコンテンツ開発の過去未来」です。動画はコチラ(12:32~)と、コチラコチラです。

その名の通りガラケー(フィーチャーフォン)からスマホに至るまでの携帯端末の歴史や仕様をおさらいしていきます。昔の携帯端末はHTML,CSS,画像フォーマットへの対応が貧弱だったり、Cookieは使えなかったりでそれはもう大変でしたが、一方で、ユーザーレベルでは偽ることのできない端末固有IDを通信会社が送信してきたので、ログイン管理という点では優れていました。

キーワードは「モバイルファースト」
「モバイルファースト」
ケータイエンジニアよ、取り残されるな!
取り残されるな!

ところが、スマートフォンが普及して状況は180度変化。PCブラウザ並の能力を身につけ、HTML,CSS,Cookieへのきちんとした対応は当たり前(HTML5,CSS3はドラフトだけど)になった一方、端末の自由度があがった為に端末認証は偽装が容易になって使えなくなってきました。

そんなモバイルコンテンツの開発でここ数年重要になってきているキーワードは「モバイルファースト」。余分な情報を削ぎ落として本当に必要なものは何かを捉え、まず携帯端末向けの構成を考えてから、それに肉付けする形でPC版の構成を考えていくというやり方です。

「ケータイエンジニアよ、取り残されるな」 ― きんちゃんこと矢島さんはそう訴えてましたが、取り巻く環境が激変しているケータイ業界においてはホントその通りですね。

#2 山本一道さん―デザイン・システム分離で、みな幸せに

山本一道さん続いては山本一道@アップルップルさん。題目は「CMSを作って10年のappleple」です。動画はコチラ(10:13~)

山本さんはWCAN(だぶきゃん)を運営するなど、Webデザイナー/エンジニア業界で活躍なさっています。もう軽く10年以上も携わっているそうで、これまで、a-news、a-column、絵日記.jp、a-blog等様々なサービスをリリースして戦ってきたそうです。これらのサービス、ブレイクする前の芸人さんとかももクロとか、安倍元総理の奥様とか、津田大介氏とか、結構いろいろな方に愛用されていたんですね。(その度、会場からお~!の声が)

しかしいくつかのサービスでは失敗を経験し、様々なことを学んだそうです。例えば、ブログに今でこそ当たり前のコメント機能を実装していなかったとか、マネタイズを考えた設計になっていなかったりといったことですが、それら失敗談は聞いててとても参考になります。

エンジニアが最終工程に来ないテンプレ
皆で幸せに
絵日記.jp、若手芸人さん達も愛用していた
絵日記.jp

そして2009年にa-blog cmsをリリース。最大の特徴は「システムとデザインの分離」。Web開発でありがちなのは、クライアントからのリクエストがディレクター、デザイナー、コーダーを経てエンジニアに降りてくるというスタイル。しかし、これだとエンジニアが納期に押し潰されがちになってしまいます。a-blog cmsは前述の分離によって、デザイナーとエンジニアが平行して作業をできるように設計し、デザイナーさんに易しく、エンジニアさんも納期に苦しまなくて済むよう工夫されているそうです。「システムとデザインの分離は大事」という点を強調なさってましたが、ここにも今までの苦労や失敗経験が活かされているんでしょうね。

当日の山本さんのスライドはSlideShareにて公開されていますので、是非そちらもご覧ください。

#3 terurouさん―地域独自性がコミュニティー運営の秘訣

terurouさん休憩を挟んで3人目のゲストはterurou@コスモルート,DSTokaiさんです。題目は「なごやこわいとか地方コミュニティのはなし」。今回のTechLIONにおける最大のナゾ、「なごやこわい」が明かされる時がやってきました。動画はコチラ(52:58~)

本職はSI/研究開発ということで、SI業の傍らRIAビッグデータ等々の研究をしているそうです。それから社内でGeQuu(ジクウ)といソーシャル・ロギング・サービスに関わっており、社長の趣味で最終的に脳波のデータを集める(なんだそりゃ!)のだとか……。

「なごやこわい」って何ですか?
「なごやこわい」
DSTokai(DSってなんだ!?)
DSTokaiとは

さて本題。DSTokaiという東海地域のメタコミュニティー(メタコン)を運営しているそうです。メタコンとは各種勉強会の核となるコミュニティーのことで、DSTokaiは適度な参加人数でうまく機能しているそうです。このGeekBarもそのうえで重要な拠点になっているといいます。ところでDSって何の略なのでしょう?? いろいろあって定かではないらしい(→参考)ですが、でらスタディー(でらは有名な名古屋弁)だったということに急遽決定。

そして出てきた「なごやこわい」。どうもDSTokaiで形成された独特な文化を言い表す言葉みたいです。その特徴の一つは「関数型の聖地」。どーいうわけか関数型言語に強い(というか関数型大好き人間?)の人達が多いらしいのです。地元の人すら置いてけぼりにしかねないその独特さは、名古屋人さえもおののいて、「なごやこわい」と言わしめるほど。うぁー、楽しそうだー!GeekBarに集う人達がすっごく積極的な理由がわかった気がします。

#4 河口信夫先生―学術研究と民間サービスの間を埋める

河口信夫先生本日最後のゲストは河口信夫@名古屋大学先生。これまた興味深いお話盛りだくさんでした。題目は「ユビキタスなシステムの作り方」ということで、動画はコチラ(1:22:42~)です。

河口先生は大学教授というアカデミックな職業の方。研究して論文を書いてこそというお仕事をされているのですが、120万ダウンロードされたというあの駅.Lockyも開発した方なのです。駅.LockyとはiOSで動くとても便利な時刻表アプリなのですが、便利なサービスの開発とアカデミズムがどう結びつくのか。実はこれ、無線LAN(Wi-Fi)による位置推定の可能性を研究するという、純粋な研究活動(現在Locky.jpプロジェクトとして継続中)からスタートしたのだそうです。

WarDriving(自転車で測定)
Wi-Fi基地局調査

初期は学生にノートパソコンを改造した装置(右写真)を背負わせ、「お前、これでデータ集めてこい!」などと言いながら、自転車で名古屋市の広範囲を走り回るなどして地道に無線LAN基地局の情報を収集したりしたそうです。名古屋市中心部の1km四方で900個近い基地局が見つかる等、その調査結果は論文にもなっています。

でもむしろ、無線LANによる位置推定が威力を発揮するのはGPSの届かない屋内です。そういう場所でいかに位置推定をするかという研究こそが本題であり、早速名古屋の地下鉄全83駅・地下街などでも基地局を測定(回数は実に2万8000回以上!)。結果、その場所には合計1700以上の基地局があることがわかったそうです。そして、収集した基地局データを使えば実際に位置推定が可能になるはずです。駅.Lockyは元々、これを実証するための実験から生まれたサービスだったというわけです。

情報ボランティア支援組織"Lisra"立ち上げ
ボランティア支援組織"Lisra"
みるみるうちに99%の駅の時刻表がアップロードされた!
99%の駅の時刻表を網羅

駅.Lockyはユーザーの位置を推定した後、最寄駅の時刻表データを表示するというアプリですが、そこで位置情報と同様に重要なものが時刻表データ。こちらは現在全国のユーザー(鉄道マニア)のボランティアで集められています。現在なんと全国99%の駅を網羅するに至っているのですが、この過程で考え始めたことがあったそうです。それは「こういったボランティア・そして駅.Lockyのようなサービスを支える仕組みはどうあるべきか」ということ。しかし研究活動が本分の大学にこういった仕組みの運営は向いていないということは薄々気づいていたため、別組織を設立しようと考え、Lisraという組織を設立。実証実験と民間サービスの間を埋める方法を考えているそうです。

駅.Lockyが研究活動の一環で生まれたものだったとは……、学術の世界と商業サービスの世界の間の不思議な関係が実に面白いですね。尚、河口先生のお話もSlideShareにて公開されいますので、ぜひそちらも読んでみてください。

 トークの後も、まだ熱かった

ゲストトークの後は恒例のプレゼント抽選会→TechLION次回予告ときて、それでだいたい終了を迎えるわけですが、今日は違いました。

参加者も「次回予告」……半分以上の人がイベント告知してましたよ、スゲぃ
参加者皆でイベント告知大会!

「参加者も、何か告知があればどうぞ」と募ったら、なんと半分以上の方々が何らかの告知をしました。ステージの前には行列が……。こんな光景見たことありませんよ。皆さん恐ろしいほどにアクティブです。なごやこわいわー。

その告知を一つご紹介。今週末の5/20(日)、株式会社ニューキャスト セミナールームにて名古屋Node予備校 vol.1を開催するそうなのですが、只今発表者を大募集中だそうです。俺のNode.js話を聞けぇという方は是非参加してみてはいかがでしょうか。

次回は7/26、再び東京・六本木

次回TechLION(Vol.8)は7/26日六本木ですよ!話が前後しますが次回予告です。

Vol.7を開催したこの日、次回TechLIONの場所と日時が確定しました。TechLION Vol.8は7/26(木)六本木SuperDeluxeで開催します。

ここまでで確定しているゲストは、vol.6で観客として参加され「私も出演しなければいけない気がする」とつぶやいていた日本のインターネットの草分け的人物、砂原秀樹@慶應義塾大学さん。モバツイの開発で有名な藤川真一@マインドスコープさん、他Twitterに縁の深い方をお招きする予定です。お楽しみに!

ゲストの皆様、観客の皆様ありがとうございました

そんなわけで、今回も面白くて驚かされる話満載のTechLIONにすることができました。私自身は初の地方遠征でしたが、こんなにも地域によって独自性があるとは想像していませんでした。ここは参加者誰しもがアクティブ!いやぁ、れからのイニシアチブは名古屋で決まり、という某フレーズに物凄く現実味を感じますよ、これは。東京もウカウカしてられません。

ゲストの皆様、観客の皆様、ご参加ありがとうございました。

TechLIONvol.6報告(2/2)―ITサファリパーク!英語の重要性と、ものづくりは誰のためかを学んだ

USP MAGAZINEまつうらです。昨日公開した前編に引き続きまして、TechLION vol.6(2012.04.12@六本木SuperDeluxe)のレポート後編をお送りいたします。

Intermission―休憩時間はお土産ゲットのチャンス

まつもとさんをお招きした第1部が終わり、しばし休憩。TechLIONの休憩時間はバーカウンターで酒の補給しつつ、物販スペースも訪れましょう。というか、訪れないでおく理由がない!(後藤さん風) USP出版発行の各種書籍・雑誌がいつも買えるのですから。過去のTechLIONの熱い記録が蘇るUSP MAGAZINEバックナンバーあり、それに最近出た新刊で、gccのほとんどのオプションを知っている(ホント?)というC言語のスピード狂が書いた「Cプログラム高速化研究班」あり、技術者たるもの読まない手はありません。

CloudCoreステッカー(角さんご提供)
CloudCoreステッカー
USP出版も絶賛物販中
USP出版も絶賛物販中

そして何より、さりげなくプレゼントが置いてあるから見逃せないのです。前編で紹介した忍者さんの置き土産、それから今回第2部で出演していただく角さんから今注目のクラウドサービスCloudCore(詳細はこの後の本文を見よ!)のステッカーを頂いていたのです。ノートPCの天板に貼ってパワーアップだ!

というわけで、次回のTechLIONからは物販スペースもよろしくおねがいします!(また写真にUSP友の会会長上田氏が映り込んでる……- -;) さぁ、そろそろ第2部の始まりですよ。

第2部―ITサファリパーク

後半の第2部は、IT界の愉快な技術者達を、ホントにホントにホントにホントに……、サファリパークに来たかのように観覧できるITサファリパーク。今回も濃い話が炸裂してました。メイン司会は法林さんから馮さんに交代。第1部で言葉数が少なかったとツッコミを受けてしまったので、第2部ではよろしく頼みますよ!

#1 後藤大地さん―言葉は通じず、電源タップは爆発し…

一人目は、USP MAGAZINE vol.4でも漢らしい姿を披露していただいた有限会社オングス後藤大地さん。題名は「世界にはばたけ!世界の*BSDカンファレンス四方山“裏”話」です。

後藤さん、FreeBSDコミッターをこなしつつSoftwareDesignマイナビニュースなど様々なメディアに記事も書いていらっしゃいます。特にFreeBSD Daily Topicsなど、閲覧者数が後藤さんの仕事に重要な意味を持つので「今すぐに」フィード登録してください(本人談)。

2部ゲスト#1 後藤さんさてメインのお話は、海外のカンファレンス参加をきっかけに英会話を身に付けていったエピソード。きっかけはコーヒー頼んだらコーラが出てきたことだったそうです。そこで「日本が誇る最強の電子辞書CASIO EX-word DATAPLUS 2 XD-GT9300を購入!コイツは単語を喋るし、これで勝てるっ!と思ったのにやっぱり通じない、ホワイ(‘A`)?カンファレンスの友人にそれがネイティブ発音でない現実を知らされ、ショックを受けたそうです。

それでどうしたか?そこで「日本が誇る最強の電子辞書CASIO EX-word DATAPLUS 4 XD-GP9700を購入したのです(←やっぱそれかい!!!)。 でもコイツはネイティブ発音な後継機。次第に英会話の場で空気が読めるようになりそれなりに効果ありでした。

しかし、問題はそれで終わりではなかったのです。オランダで開催のEuroBSDconに行った時、街には英語が一切ない!なんとかホテルに着いて、PCを立ち上げようとした瞬間……電源タップが爆発!!!(;゚д゚) ←電源電圧が違ったんですね。

後藤さん執筆の本をど~ん!(私も買います)
後藤さんの本ど~ん!

それでもとにかく、エンジニアには英語が不可欠、勉強しましょう。それにはまず危機感を高めることが重要です。何も考えず海外のカンファレンスに申し込んで一人で行ってみるのがオススメです。危機感が得られて数年で英語が身に付くようになるでしょう。

そんなわけで「エンジニアっていくつになっても勉強しないとダメだよね」ということで、26日に発売される僕らの本「実践 FreeBSD サーバ構築・運用ガイド」をよろしくお願いします、といって発表終わり。「発表こんな感じでよかったんでしょうか?」 と発表後にご本人から聞かれましたが、今回のゲストの中で一番観客を笑わせておいて何おっしゃってるんですか!!

 #2 角俊和さん―自分が使うものとして作ったCloudCore

二人目は、先程のステッカーを持って来てくださったKDDIウェブコミュニケーションズ(旧CPI)角俊和さん。題して「クラウドインフラ事業の作り方。」ということで、立ち上げられたクラウドサービスCloudCoreの話を通して得た知見をお話しいただきました。

2部ゲスト#2 角さん角さんがお勤めの会社KDDIウェブコミュニケーションズはレンタルサーバーやホスティングの会社。角さんはそちらで、CloudCoreを始めとするホスティング事業を統括なさっているそうえす。ちなみに以前はPerlバリバリなプログラマーをしていたそうです。

さて、世の中を見回すとAmazon AWSだったり、さくらのクラウドだったり……と、既に大手の非の打ちどころがないサービスがあって、出遅れてしまっていたそうです。「じゃあウチはどういうサービスを打ち出せば?」

よくある3C(環境分析)だ4P(商品・販売戦略)だというやり方に基づき、アレしてみたらいいんじゃない?などと企画を練ってみます。しかし、企画段階ではよさそうに思えても、はたから見ると巨大なもの・ヘンなものになりがち。そういう「何を作るか」という考え方の市場分析から発想を転換し、「本当にそれを使って嬉しい人がいるのか?」という考えに基づいてサービスを企画してみました。これって言われてみれば当たり前なことですよね、と角さん。

そうして辿り着いたのが、「使う人」=「作る人」=「ITエンジニア」なサービスCloudCoreだったのです。ターゲットは自分達(目の前にいる)なので本当にユーザーの心に響く企画を立て易かったというわけです。CloudCoreに「開発者支援制度」という、開発コミュニティが催す勉強会向けに会議室を貸したりする制度を作ったのもそういう背景があったからです。

角さんの会社でやった4月バカ企画
MS台湾激似の4/1企画

蓋を開けてみればこのサービスは会社創業以来の大ヒット。今年のエイプリルフールは「使う人」=「作る人」=「ITエンジニア(俺たち)」=「(ならばきっと)オタク!」という綿密な調査に基づかない発想から、MS台湾のとあるページをパクって(でも許可は貰って)右写真のページ←(司会者)なんだこりゃ! を作ってしまい、非常にウケたりもしたそうです。(パクっているのはトップページだけではないのがスゴい……。感動した!)

しかもサービス立ち上げまでに要した日数は僅か60日。「巧遅より拙速」を合言葉に、サーバーエンジニアとプログラマーの座席を混ぜて交流を促進させたり、システムをシンプルな設計にしたり、などの工夫が功を奏したそうです。

やっぱり、使う人の姿を思い浮かべながら作られたモノというのは強いんですね。

#3 閑歳孝子さん―心掛けるは「お母さんにも使って貰えるサービス」

そして本日のラスト。三人目は株式会社ユーザーローカル閑歳孝子さんです。題名は「非エンジニアの私が、いかにしてサービスを作るようになったのか」です。聞き覚えのあるサービスを多数リリースされていますが、その秘訣はどこにあるのでしょうか。

2部ゲスト#3 閑歳さんまずはそんな閑歳さんの自己紹介から。高校時代。パソコン通信に目覚めたそうです。2400bpsのモデムを唸らせながら草の根ネットに始まってNIFTY-Serve。でも当時、恋の話などで夢中な学校の友達に、恥ずかしくてそんな話題はとても振れなかったそうです。あと、Visual Basicでプログラミングもしていたそうですが、挫折。なぜなら、わからない事が生じたところでやはり友達にそんな相談をできず、結局誰にも答えを聞けなかったからというのです。

閑歳さんが手掛けてきたサービス(こんなに!?)
手掛けたサービス(こんなに!?)

その後大学は情報系の学部に進み、学内SNSの立ち上げ、起業などを経験した後、就職。記者、Webディレクターを経て、現在の会社へ。そこで数々のWebサービスをリリースしてきたわけですが、その数々が画面に映し出され(右写真)、多さにビックリしてしまいました。聞き覚えのあるサービスがたくさん……。そのうちの一つソーシャルインサイトで、この日のハッシュタグ #techlion に関するつぶやきの日本国内分布を表示してみると…………、島根県だけ真っ赤っ赤。これには会場も爆笑の渦でした。さすがメインゲストまつもとさん、松江市名誉市民な理由もよくわかります。

それにしてもどうして数年でこんなにいくつも有名なサービスをリリースできたのでしょう。それにはまず問題設定だといいます。ここが一番難しいそうですが、考える上で「適切な大きさの問題さえ生まれれば。」がとても参考になっているそうです。先程の開発サービス一覧にも出てきたソーシャル家計簿Zaimの場合、TechCrunch.comを一年分読破するなどして家計簿がちょうどいい問題設定であることを導き出しました。次に、これから作っていこうとしているものへの心掛けとして3つ基準を設けます。(1)日常的に使うもの、(2)普通の人が使うもの、(3)少なくとも自分が使うもの。さらに閑歳さんの場合、これに加え「お母さんにも使って貰えるサービス」という基準も取り入れているそうです。

そうして開発を始めたら後も、「使って感動するサービス」を常に心掛けます。「おもてなしの心」を持ち、一日に30~50通寄せられた要望・お問い合わせにももれなく対応してきたそうです。そうして、自分の知らない遠くの人の人生が変わることを願う……。

なるほど、やはりそうやって使う人を思い描いてサービスを作っていらっしゃるんですね。ゲスト皆様の話はどれも興味深かったです。ありがとうございました。

本編終了―超貴重な抽選会と次回予告

プレゼント抽選会でまともとさんが自著にサイン中
Rubyの父がRuby本にサイン

というわけで、TechLION本編は終了。最後は恒例のプレゼント抽選会です。今回も協賛の方々からこんなにいろいろプレゼント(+あとこちらも)をいただいたのですが、Ruby本が当たるとRubyの父ことまつもとさんにサインが貰えるというそれはそれは貴重な抽選会だったのです。

運良く当選されたお客様~、いっぱい自慢しつつ大切になさってくださいね。(関係者の私なんてどうあがいても貰えないのですよ~)

次回vol.7は5・14、名古屋で会おう!

次回は5.14、名古屋GeekBarだ!
次回は5.14、名古屋!

さてさて3時間にわたって開催されたTechLION vol.6もこれにておしまい。次回は、再び東京の地を飛び出し、今度は名古屋へ出没します。しかも開催は5月。前回開催から4か月待たされたと思ったらもう翌月なのです。早っ!会場は名古屋Geek Barです。

次回のゲストもまた、普通の顔して実は濃ゆ~い方ばかり?一体全体、どんな突拍子も無い展開が待っているのか!? 名古屋近郊にお住まいの方はもちろん、東京を含むその他地域の方も、是非足を延ばしていただけると嬉しく思います。

ご参加ありがとうございました。

出演者の皆さん、ありがとうございましたゲストの方々をはじめ、TechLION vol.6に参加してくださった皆様、ありがとうございました。このように多くの方々にご支持を頂けていることに、心より感謝を申し上げます。

今日この場を共有し、新たな知見を得た皆様が、それぞれのシーンでより一層ご活躍できますことをお祈りいたします。

TechLIONvol.6報告(1/2)―Rubyの父まつもと氏が考える「10年先も通用するプログラマー」とは

こんにちは。USP MAGAZINE編集長のまつうらです。既に各所で速報していただいておりますTechLION vol.6(2012.04.12@六本木SuperDeluxe)ですが、いやぁ~、前回に引き続き、今回も大変盛り上がりました。その雰囲気を余すことなく伝えるべく、スタッフの立場からより濃いレポートをお届けしてまいります。(→後編(2/2)はこちら)

そもそも、TechLIONって何?

さてレポートに入るわけですが、その前に!今一度おさらいしておきたいことはがあります。それは、TechLIONが何なのかについて、です。

TechLIONとは、今注目の技術者を招き、彼ら彼女らから技術者哲学を学ぶシンポジウム(=飲み会)である。

看板も準備OK

シンポジウムって言うと何かマジメで堅苦しいものを想像するかもしれませんが、本来のシンポジウムというのは酒を酌み交わしながら、哲学について深く語り合う会であり、哲学用語として用いられることもあります。

TechLIONでは日進月歩で登場する技術を勉強するのではなく、それら技術を操る技術者は一体どうあるべきか、どう考えていくべか。そういった、月日が経っても決して色褪せることのない「本質」を、参加者みんなで共有しようとするための宴なのです。本質を引き出すには、普段纏っている鎧兜を皆で脱ぐ必要があり、それでお酒が出てくるわけです。

本日のメインゲスト、まつもとゆきひろさんのトーク「10年先も勝負できるプログラマーとは」というテーマ、これはまさにそういった技術者哲学を語ろうとしているものではないでしょうか。

それではTechLION vol.6のレポートにまいりましょう。

第0部―忍者も乱入!?張り切ってスタンバイ

「おうちに帰るまでが…」とよく言いいますが、それならおうちを出発した時から既にイベントは始まっているのです!というわけでまずはメイキングから。

午後5時、今回の会場である六本木のSuperDeluxeに入って椅子並べたり最終打ち合わせしたりと、手際よく進めます。やがて、ゲストの皆様も続々と会場入り。「あ、どうもー。本日はよろしくおねがいしまーす」などと時折名刺交換しつつ準備をしていたら、いつの間にやら会場内に忍者が忍び込んできたのでした。

忍者の置き土産(マシュマロ)
忍者の置き土産(マシュマロ)
忍者が乱入!?
忍者乱入!(後ろの男は一体…)
準備中(顔合わせ中)
準備中(顔合わせ中)

ムム、何奴!?……正体を問いただすと、どうやらスポンサーのサムライファクトリーさんが送り込んだ刺客のようです。カクカクシカジカな経緯でやって来たらしいのですが、正体を明かした途端、懐から何か取り出しました。一触即発!!! ……と思いきや、それは来場者プレゼントのマシュマロでした。「バカなことを全力でやる」とは素晴らしいキャッチコピーですねぇ。お礼を申し上げつつ、記念に一枚パシャリ。今日はゆっくり楽しんでいってくださいねー。……って、忍者の写真の後ろに誰か忍び込んでるぞ!(←まぁUSP友の会会長上田氏ですけどね)

そんなハプニング(?)もあり、いよいよ本編スタートです。

第1部―獅子王たちの夕べ

司会者はこの二人!
司会者の二人組

さてさて、TechLION、4か月ぶりに始まりました。皆さんおまちどーさまでした!今回は諸般の事情でUstream中継ができなかったので、しっかとこの場でレポートいたします。

観客の皆さん(100人超え!)
観客の皆さん(100人超え!)

司会はお馴染み、 IT業界の明石家さんま(?)法林浩之氏。そしてもう一方、今回から加わった技術評論社の馮富久氏の二人組です。

おぉっと、二人の来ているTシャツが新しいです。そうです、このあいだできたばかりものなんですね。さて、着ているシャツも一新し、これからどんな展開をみせてくれるのでしょうか? 観客の皆様もたくさんご来場いただき(何と100名超え)、今日のメインゲストの登場を今か今かと待っています。さあはじまりです。

メインゲストはMatz。「10年先も勝負できるプログラマーとは」

まつもとさん登場 大々的に宣伝してましたとおり、今回はあのRubyの生みの親で松江市名誉市民でもあるMatzこと、まつもとゆきひろさんにメインを張っていただきました。

いつの間にやらいろいろな肩書きが増えたそうですが、つい先日も2011 Free Software Awardsを受賞されて、また一つ増えましたね。PerlのLarry Wall氏も同賞を貰っていましたけどPHPはまだということで、「Perlに並び、PHPを超えたわけですね!」と早速司会者がフォロー。

10年前を振り返り、10年後を予測してみる

さて、本日のテーマは「10年先も勝負できるプログラマーとは」ということで、10年前の振り返りから話を始めました。なぜ10年か。それはMatzさん曰く「10年先ってのはIT業界にとって永遠の未来みたいなものと考えることができるから」です。

2002年というとRails以前。この頃Rubyは日本を代表するOSSではあった。しかしビジネスにRubyが使えるとは誰も信じていなかった。

まつもとさんトーク中Matzさんはまずそう振り返りました。そもそもレンタルサーバにRubyがプリインストールされてなかったせいもあるのでしょうが。一方で、「自分の周りはあんまり変わってない」とも言いました。自分は殆どの時間をRubyに使ってただけだし、メールもwebもチャットも既にあった、と。だから、この先10年の変化も意外と大したことないかもしれない。そこで「未来は連続的にやってくる」と仮定することにして、10年後をエクストリーム未来予測してみることにしました。

メインストリームPCの性能というのはだいたい20年ぐらい前のスパコンが降りてくる感じ。だから例えば10年後コンシューマ機が1024コアとかになってても不思議じゃない。
一方、メモリに関して言えば、次世代品は今のDRAM相当部分(主記憶)で不揮発化が実現していて、もちろん容量も増えてて320GBとかになっているかもしれない。

など、いろいろと想像を巡らせてみると、これだけみても課題はいろいろ出てきます。こういったメニーコアが普及した時、言語としてどう対応すべきか。また、主記憶がそうなっていたら(キャッシュの概念が不要になる等で)ソフトウェアアーキテクチャも変わっていることでしょう。

10年先でも重要なことを押さえる

その後、より本質的な話に移りました。大事だと思うものを一つ一つ考えていきます。

まつもとさんトーク中数学はどうか。……「数千年前からやってるもんだからあと10年でどうかなるものじゃない」と、ちょっと意外な見解。Matzさん実は数学が苦手で、学生の頃1(10段階評価で)を貰ったそうです。Matzさんが「得意科目は国語と英語」とボソっと言ったところ、すかさず法林さん「やっぱ言語得意なんだ!(笑)

サイエンス。……何よりもサイエンス的な考え方。事実に基づいて推論を行なって検証するというスタイル。これをその時代のトレンドに合わせていくことで、地に足の着いたエンジニアになれるのではないか、と言います。

チャレンジ。……年をとると新しいことしたくなくなりがち。「大人げない大人になろう」。社会生活には分別あったほうがいいがプログラミングに関しては大人げない方がいい、と。そんなMatzさんは、とある中学生コミッターに対抗意識を燃やしているそうです。

名声w。……オープンソース、フリーソフトウェアの世界では、勤めてる企業を話したところで通用しない。「○○を作った人だからプログラミング強そう」と考えてもらえ、それが良い話に繋がる。

継続。……例えば自分の考えたこと、感じたことをブログやTwitterに書く。自分の書いたコードを公開する。こういうのを10年、20年と続ける。「今から10年何かを続けることで、10年先も通用する人になれる」とMatzさんは言います。天才だったのではなく継続によって、今の自分があるのだと。

楽しさ。……「プログラミングが楽しいとずっと思ってて、楽しくないと思ったことは無い」ときっぱり。Matzさんの場合、このように思えるポイントは「万能感」だそうです。プログラミングは「やれば出来る」が結構通用するのだと。

なるほど、10年先も通用したければ今から10年続ける気持ちが大切なんですね。そしてそれを支えるために重要なのが「楽しさ」であると。また一人、天才と思っていた人の蓋を開けたら中には努力が詰まっていた……、そんな思いでした。

最後に質問タイムがあり、私も一つ伺ってみたかった質問をさせていただきました。

世の中には多くのOSSがあり、特長をプレゼンすると「いいね!」と言ってもらうまでは比較的容易です。しかし「俺も使ってみる」という言葉が出てくる程までに訴求することは難しく、それで悩んでいるOSS開発者がたくさんいます。Rubyは今や世界中で使われるOSSになりましたが、何が成功の要因だったと思いますか?

すると、Matzさんは「愛されるプロダクトを作って継続することが、成功の秘訣かな。僕自身はプロモーションを全然していません」とおっしゃいました。質問するまでもなく、トークの内容がその答えだったんですね。今日は、貴重なトークを聞かせてくださいましてありがとうございました。

後編へ続く

第1部はこれにて終了。このトークは、6月発行のUSP MAGAZINE vol.5にてさらに深く掘り下げて再録しますのでご期待ください。

この後、しばしの休憩を挟んで第2部が始まるわけですが、その模様は次の記事で!