TechLIONvol.6報告(1/2)―Rubyの父まつもと氏が考える「10年先も通用するプログラマー」とは

こんにちは。USP MAGAZINE編集長のまつうらです。既に各所で速報していただいておりますTechLION vol.6(2012.04.12@六本木SuperDeluxe)ですが、いやぁ~、前回に引き続き、今回も大変盛り上がりました。その雰囲気を余すことなく伝えるべく、スタッフの立場からより濃いレポートをお届けしてまいります。(→後編(2/2)はこちら)

そもそも、TechLIONって何?

さてレポートに入るわけですが、その前に!今一度おさらいしておきたいことはがあります。それは、TechLIONが何なのかについて、です。

TechLIONとは、今注目の技術者を招き、彼ら彼女らから技術者哲学を学ぶシンポジウム(=飲み会)である。

看板も準備OK

シンポジウムって言うと何かマジメで堅苦しいものを想像するかもしれませんが、本来のシンポジウムというのは酒を酌み交わしながら、哲学について深く語り合う会であり、哲学用語として用いられることもあります。

TechLIONでは日進月歩で登場する技術を勉強するのではなく、それら技術を操る技術者は一体どうあるべきか、どう考えていくべか。そういった、月日が経っても決して色褪せることのない「本質」を、参加者みんなで共有しようとするための宴なのです。本質を引き出すには、普段纏っている鎧兜を皆で脱ぐ必要があり、それでお酒が出てくるわけです。

本日のメインゲスト、まつもとゆきひろさんのトーク「10年先も勝負できるプログラマーとは」というテーマ、これはまさにそういった技術者哲学を語ろうとしているものではないでしょうか。

それではTechLION vol.6のレポートにまいりましょう。

第0部―忍者も乱入!?張り切ってスタンバイ

「おうちに帰るまでが…」とよく言いいますが、それならおうちを出発した時から既にイベントは始まっているのです!というわけでまずはメイキングから。

午後5時、今回の会場である六本木のSuperDeluxeに入って椅子並べたり最終打ち合わせしたりと、手際よく進めます。やがて、ゲストの皆様も続々と会場入り。「あ、どうもー。本日はよろしくおねがいしまーす」などと時折名刺交換しつつ準備をしていたら、いつの間にやら会場内に忍者が忍び込んできたのでした。

忍者の置き土産(マシュマロ)
忍者の置き土産(マシュマロ)
忍者が乱入!?
忍者乱入!(後ろの男は一体…)
準備中(顔合わせ中)
準備中(顔合わせ中)

ムム、何奴!?……正体を問いただすと、どうやらスポンサーのサムライファクトリーさんが送り込んだ刺客のようです。カクカクシカジカな経緯でやって来たらしいのですが、正体を明かした途端、懐から何か取り出しました。一触即発!!! ……と思いきや、それは来場者プレゼントのマシュマロでした。「バカなことを全力でやる」とは素晴らしいキャッチコピーですねぇ。お礼を申し上げつつ、記念に一枚パシャリ。今日はゆっくり楽しんでいってくださいねー。……って、忍者の写真の後ろに誰か忍び込んでるぞ!(←まぁUSP友の会会長上田氏ですけどね)

そんなハプニング(?)もあり、いよいよ本編スタートです。

第1部―獅子王たちの夕べ

司会者はこの二人!
司会者の二人組

さてさて、TechLION、4か月ぶりに始まりました。皆さんおまちどーさまでした!今回は諸般の事情でUstream中継ができなかったので、しっかとこの場でレポートいたします。

観客の皆さん(100人超え!)
観客の皆さん(100人超え!)

司会はお馴染み、 IT業界の明石家さんま(?)法林浩之氏。そしてもう一方、今回から加わった技術評論社の馮富久氏の二人組です。

おぉっと、二人の来ているTシャツが新しいです。そうです、このあいだできたばかりものなんですね。さて、着ているシャツも一新し、これからどんな展開をみせてくれるのでしょうか? 観客の皆様もたくさんご来場いただき(何と100名超え)、今日のメインゲストの登場を今か今かと待っています。さあはじまりです。

メインゲストはMatz。「10年先も勝負できるプログラマーとは」

まつもとさん登場 大々的に宣伝してましたとおり、今回はあのRubyの生みの親で松江市名誉市民でもあるMatzこと、まつもとゆきひろさんにメインを張っていただきました。

いつの間にやらいろいろな肩書きが増えたそうですが、つい先日も2011 Free Software Awardsを受賞されて、また一つ増えましたね。PerlのLarry Wall氏も同賞を貰っていましたけどPHPはまだということで、「Perlに並び、PHPを超えたわけですね!」と早速司会者がフォロー。

10年前を振り返り、10年後を予測してみる

さて、本日のテーマは「10年先も勝負できるプログラマーとは」ということで、10年前の振り返りから話を始めました。なぜ10年か。それはMatzさん曰く「10年先ってのはIT業界にとって永遠の未来みたいなものと考えることができるから」です。

2002年というとRails以前。この頃Rubyは日本を代表するOSSではあった。しかしビジネスにRubyが使えるとは誰も信じていなかった。

まつもとさんトーク中Matzさんはまずそう振り返りました。そもそもレンタルサーバにRubyがプリインストールされてなかったせいもあるのでしょうが。一方で、「自分の周りはあんまり変わってない」とも言いました。自分は殆どの時間をRubyに使ってただけだし、メールもwebもチャットも既にあった、と。だから、この先10年の変化も意外と大したことないかもしれない。そこで「未来は連続的にやってくる」と仮定することにして、10年後をエクストリーム未来予測してみることにしました。

メインストリームPCの性能というのはだいたい20年ぐらい前のスパコンが降りてくる感じ。だから例えば10年後コンシューマ機が1024コアとかになってても不思議じゃない。
一方、メモリに関して言えば、次世代品は今のDRAM相当部分(主記憶)で不揮発化が実現していて、もちろん容量も増えてて320GBとかになっているかもしれない。

など、いろいろと想像を巡らせてみると、これだけみても課題はいろいろ出てきます。こういったメニーコアが普及した時、言語としてどう対応すべきか。また、主記憶がそうなっていたら(キャッシュの概念が不要になる等で)ソフトウェアアーキテクチャも変わっていることでしょう。

10年先でも重要なことを押さえる

その後、より本質的な話に移りました。大事だと思うものを一つ一つ考えていきます。

まつもとさんトーク中数学はどうか。……「数千年前からやってるもんだからあと10年でどうかなるものじゃない」と、ちょっと意外な見解。Matzさん実は数学が苦手で、学生の頃1(10段階評価で)を貰ったそうです。Matzさんが「得意科目は国語と英語」とボソっと言ったところ、すかさず法林さん「やっぱ言語得意なんだ!(笑)

サイエンス。……何よりもサイエンス的な考え方。事実に基づいて推論を行なって検証するというスタイル。これをその時代のトレンドに合わせていくことで、地に足の着いたエンジニアになれるのではないか、と言います。

チャレンジ。……年をとると新しいことしたくなくなりがち。「大人げない大人になろう」。社会生活には分別あったほうがいいがプログラミングに関しては大人げない方がいい、と。そんなMatzさんは、とある中学生コミッターに対抗意識を燃やしているそうです。

名声w。……オープンソース、フリーソフトウェアの世界では、勤めてる企業を話したところで通用しない。「○○を作った人だからプログラミング強そう」と考えてもらえ、それが良い話に繋がる。

継続。……例えば自分の考えたこと、感じたことをブログやTwitterに書く。自分の書いたコードを公開する。こういうのを10年、20年と続ける。「今から10年何かを続けることで、10年先も通用する人になれる」とMatzさんは言います。天才だったのではなく継続によって、今の自分があるのだと。

楽しさ。……「プログラミングが楽しいとずっと思ってて、楽しくないと思ったことは無い」ときっぱり。Matzさんの場合、このように思えるポイントは「万能感」だそうです。プログラミングは「やれば出来る」が結構通用するのだと。

なるほど、10年先も通用したければ今から10年続ける気持ちが大切なんですね。そしてそれを支えるために重要なのが「楽しさ」であると。また一人、天才と思っていた人の蓋を開けたら中には努力が詰まっていた……、そんな思いでした。

最後に質問タイムがあり、私も一つ伺ってみたかった質問をさせていただきました。

世の中には多くのOSSがあり、特長をプレゼンすると「いいね!」と言ってもらうまでは比較的容易です。しかし「俺も使ってみる」という言葉が出てくる程までに訴求することは難しく、それで悩んでいるOSS開発者がたくさんいます。Rubyは今や世界中で使われるOSSになりましたが、何が成功の要因だったと思いますか?

すると、Matzさんは「愛されるプロダクトを作って継続することが、成功の秘訣かな。僕自身はプロモーションを全然していません」とおっしゃいました。質問するまでもなく、トークの内容がその答えだったんですね。今日は、貴重なトークを聞かせてくださいましてありがとうございました。

後編へ続く

第1部はこれにて終了。このトークは、6月発行のUSP MAGAZINE vol.5にてさらに深く掘り下げて再録しますのでご期待ください。

この後、しばしの休憩を挟んで第2部が始まるわけですが、その模様は次の記事で!

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