TechLION取材班のまつうらです。先週に続き、3/24に開催しましたTechLION vol.20のレポートをお届けします。(当日の模様を収録した動画も準備できましたので是非一緒にご覧ください)
前半戦では今回の3人のゲストそれぞれの方に「20年」をテーマに語っていただきましたが、後半戦はゲストも司会者も全員参加のパネルディスカッションを行いました。
ITにとっての20年はあまりにも長い年月で、殆ど何もかもが変わったように思えます。しかしいざ議論が始まると、変わったものばかりでなく、殆ど変わらないこと、ずっとそのままなものなどが意外に多くあることに気付かされました。
■第3部 ジャングルバス.com
本日のディスカッションではいずれも『20』にちなんだサブテーマに基づくトークが繰り広げられました。ここではその中から興味深かったものをいくつかレポートしたいと思います。
エンジニアとして20年前と変わったこと
馮P:エンジニアをやってきて、この20年間で変わったこと変わってないことについて聞いていきたいと思います。
松本:私、研究者なのでエンジニアではないんですが(笑)……。根本的に変わってないと思います。何かやらなきゃいけない時の考え方ってあまり変わってないな、と。特にネットワークなんて、IP以上のものって何も出てきてないし。
堂前:私は20年前から、学生バイトながらプロバイダーやってて、その意味では20年間ずっと変わってなくて……。でも世間の見方が全然変わったなとは思いますね。
桜庭:私も研究職なんですけども、変わってないですねあんまり。
法林GM:使っているテクノロジーが変わったりは?
桜庭:それはまぁ……、Javaですねぇ(笑)
馮P:20年前ってまだここまでネットワークを意識してなかったと思うんですが、そのあたり皆さんいかがですか?
松本:私はパソコン通信の時代から始めてるので30年前から繋いでましたけど、変わったなーと思うところと言えば、昔は無手順接続だったものが今はIPになったことですね。でもやってることは掲示板なんですよね。
法林GM:繋がった上でやってることは実は変わってないと。
松本:ただ、やっぱ劇的に変わったなーというのは、サーチエンジン登場後ですね。今では「ググレカス」が普通の言葉になったように、調べるとなったらまずネット検索ができるようになった。これはスゴいことだなと。
馮P:コンピューターの性能は20年前とはがらっと変わり、できることが大きく変わったんじゃないかなぁと思うんですが。
堂前:でも結局掲示板ですよね、絵文字とか使えるようになって超リッチな掲示板になったりはしてますけど。でも一つ違うことがあって、以前はコンピューターのことわかってる人間だけが参加してましたけど、今はその文化を持たない人がやってきて炎上するみたいな……。やってることは変わらないけど、参加者のメンタリティーが違うってのが大きな違いだと思います。
馮P:昔は作り手と使い手が被ってましたが、今は殆ど別になってきましたからね。
馮P:少し話替わるんですけど桜庭さん、Javaのコミュニティーを20年見てきてどうですか?
桜庭:ぶっちゃけ、年取ったなぁと(笑) Javaに限った話じゃないですけど、中の人達の年齢がそのまま上がっていくという……。
馮P:離脱する人もいるんですか?
桜庭:います。コミュニティーって「余暇」なんですよ。なのでマネージャーになったりして仕事が忙しくなるとコミュニティーには出られなくなっちゃうとかあるんですね。最近再びJavaが注目されたおかげでまた若い人が入ってきてはいるんですけど中間層がいなかったり。
馮P:20年ともなると、親子関係ができてもおかしくない年月ですよね。
堂前:IIJの古参のメンバーもこども達がユーザーとして普通にインターネット使ってたりしますしね。
法林GM:もうすぐ入社してくるかも……
この20年で、最もインパクトのあったテクノロジーは?
馮P:この20年で最もインパクトのあったテクノロジー。いろいろあったと思うんですけど皆さん何を思いつきますか?
桜庭:そりゃあJavaです! Javaが出てきた時って物凄いインパクトがあって、最近AppleがSwiftを出して一応話題になりましたけど、あんなもんじゃなかった。
法林GM:プログラミングが変わるくらいの言われようだったですものね。
馮P:言語で雑誌ができちゃうのって今考えるとすごいですよね。桜庭さん以外の方はどうですか?
堂前:一番大きいのはインターネットへの繋ぎ方ですよ。昔ダイヤルアップだった頃は回線交換網の上にパケット交換網がありましたけど、今は逆にIP電話で、つまりパケット交換網の上に回線交換が実現される時代なんですよ。これがこの20年で実は一番大きかったんじゃないかと。
法林GM:松本さんどうですか?
松本:今思い出したんですけど、Netscapeですね。あの頃は学生だったか社会人なりたてだったかくらいでしたけど、やっぱりすっごくインパクトありましたね。
法林GM:20年選手の人にとってはあれが一番大きかったんでしょうね。
馮P:法林さんはどうですか?
法林GM:かなり広い括りですけどやっぱWebかなぁ。それまでインターネットには色々なプロトコルがあったのにWebが普及したらみんなHTTPになってしまい……。昔このイベントに砂原先生や村井先生が出てくださって、次世代が前世代の技術の上に新しい技術を作ってどんどん積み重なっていくみたいな簀子(すのこ)理論をおっしゃってましたけど。Webは大きなインパクトのある技術だと思います。
馮P:僕も喋らせてもらうと、位置情報がすごく変わったなぁと思います。2008年にリトアニアに行って道に迷ったことがあってそのことをSNSに書いたら「今どこにいるの?」って返されて、「いや、それがわからなくて」みたいなやりとりしましたけど、今ならもうわかるじゃないですか。
次に来る注目テクノロジー・トレンドは何?
馮P:ここまでは昔話でしたけど「そろそろ、これくるんじゃないかな」みたいに感じるものはありませんか?
松本:こういう話をするときって「あぁ昔それあったね」っていうものが名前を代えて再来するというケースが結構あります。直近だとキュレーションとかキュレーター。言ってしまえば人力検索じゃないですか。spamや氾濫した情報で今、データが汚れてしまった状態なので、もう一回まとめなおす必要性が感じられます。なのでキュレーションやキュレーターっていうのは非常にまっとうなやり方だと思います。
桜庭:私は大学時代にニューラルネットワークというのを研究してまして、何故か今、ディープラーニングという名で再びのブームが来ているという……。焼き直しと言えるかもしれないですけど、昔はできなかったことがコンピューターの性能向上によってできるようになってきて現実的になってきたということなんだろうなと。
堂前:焼き直し論に近いところがあるんですけど、通信屋としては課金制度の見直しが来るんじゃないのかと。リッチな情報をやりとりをするスマホなどの端末がある一方で、IoTの時代では単純で細かいデータをやりとりするデバイスが無数の回線に繋がれるようになって、今の回線単位の課金制度じゃ「そんなにお金掛けられないよ」という話になってくると思いますので。
馮P:IoTに関してもう少し伺いたいんですけども、IoTの先に見えるものとか考えるものとかありましたら是非。
松本:失礼な言い方かもしれないですけどIoTは昔、M2M(マシン to マシン)だったんですね。携帯電話を犬や猫につければもっと売れるはずだなんて言われていた時代とやってる事は同じなんですよね。今は車のエンジンを携帯電話で始動したりとか言ってますが、でもこれからはその後を考えなきゃいけないです。
実際に先日あったインシデントなんですが、とあるメーカーの車に走行中でもドアが開くという脆弱性が露呈し、パッチ当てて直しましたということがありまして、「自分が生きている間に機械に悪さをされる時代が来たか」と思いました。機械が敵になるっていうケースがこれからリアルに出てくると思います。
馮P:一番安全なのは「何も使わない」みたいな。
法林GM:(vol.19に続き)またそういう話が出ちゃうのか……
2035年、ITやインターネットはどうなっている?
馮P:それでは20年後はどうなっていると思いますか?
松本:そろそろ空間をいじれるようになりたいです。例えば手で空間をなぞると、そこにコマンドが表示されるようになったり……。スクリーンとしての空間を目で見られて手足を使って操れるようになってるといいな、と。傍から見ると太極拳みたいな動きをしているような……。
法林GM:桜庭さんにはやっぱり20年後Javaはどうなっているか聞いてみたいですよね。
馮P:Javaは20年後にありますかねぇ?
桜庭:Javaが10周年の時に、Bill Joyが「次の10年でJavaは消えるかもしれない」と言ってたんですけど、残ったんです。それで思うんですけど Fortranって結構残ってますよね。COBOLも残ってますしLISPも残ってますよね。そんな感じで次の20年もJavaは残ってるんじゃないかと。ただ今の形のJavaがそのまま残るってのはあり得なくて、残るんだったらそれなりに何か進化してて違う形のJavaになっているだろうとは思います。
堂前:私もちょっと考えたんですけど、20年経っても世の中ってあんま変わんないんじゃないのかなって気がします。昔の科学雑誌を見ると21世紀は車がチューブを走ったり空を飛んだりする様子が描かれていましたけど、僕らは相変わらずキーボード叩いててますからね。
一つ希望的なことを言えば、電話が普通に浸透しているように、ネットやITも普通に浸透してほしいなと今でも思います。例えば脅迫電話とかあっても「NTT何やってるんだ」なんて今どき言わないですが、ネット上で事件が発生すると「プロバイダ何やってるんだ」って未だに言いますよね。法律的には整理が試みられたんですけども人間の意識っていうのがまだついてきてないということですね。
馮P:TechLIONは2035年、どうなってるんでしょう?
法林GM:これはどーだろう……。僕イベントでよく司会やってるんですけど「いつまでちゃんと舌が回るんだろう」っていつも気になってます。舌がまわっなくたったら引退だと思ってるんですけど。あ!今、回らなくなってる! ……引退かも(笑)
劇的な変化があってもやっぱり掲示板!?
馮P:会場の皆さんからも質問や意見などありますか?
観戦者:今の進化ってコンピューターやネットワークのスピードが速くなるといった連続的な変化ですけど、量子コンピューターの登場のような劇的な変化があった場合にはどう変わるでしょうか?
松本:やっぱりコンピューターの使い方、例えば計算のやり方であったり、アルゴリズムや設計といったものが根本的に変わると思います。私のところでも量子コンピューターの話題が最近普通に出るようになりました。ただ、普通の人がiPhoneと同じように量子コンピューターを使うというのはあり得ないと思っていて、専門家がそこで新しいサービスを生み出すんじゃないかなと思ってます。
桜庭:量子コンピューターに限らないんですけど、ハードウェアが良くなればソフトウェアが良くなってソフトウェアが良くなればハードウェアが……っていう流れがずっと続いていくんだろうなと。だから量子コンピューターが出てくればそこでまた破壊的イノベーションが作り出されるだろうと思います。
堂前:そのうえで、我々はやっぱり掲示板を作ろうかなと思うわけですね(笑) 茶化してるわけじゃないんですけど、最後はそこで人間が何をするかっていうところですよね。きっと、量子コンピューターでないと実現できないような何か破壊的な掲示板でしょうね。
◇ ◇ ◇
終始掲示板という話が出てきて可笑しかったのですが、どんなに技術が進歩しようが、10年そして20年経とうが、ITを他人とのコミュニケーションに活用したいという欲求は変わらないということですね。同様に、昔も今も変わらない人間の欲求が多数あり、それらを実現すべく各時代の能力に応じて様々な名前で同種の技術が登場する……。そういうことなのかなと、今回のディスカッションを聞いて思いました。ゲストの皆様、ありがとうございました。
(下の写真は、毎回恒例の出場者記念撮影。写真にマウスを重ねると……)
■次回5/25(月)は、ゲームに関係の深い方々を招待
さて次回のTechLION vol.21は、もう来月ですが5/25(月)に開催が決定しております。お招きするゲストは伊勢幸一@テコラスさん、清水勲@ミクシィさん、伊藤学@STUDIO Freesiaさん、と既に3人決まっていて、いずれもゲーム業界に関係のあるエンジニアやディレクターの方々です。
コンピューターの歴史を語る上では欠かすことのできないゲームというテーマに、TechLIONもついに踏み込みます! 既に予約受付中ですので、是非ともご参加ください。