TechLION取材班まつうらです。今週そして来週のブログでは、5/25に開催したTechLION vol.21のレポートをお届けします。
(尚、当日の模様を収録した動画も公開されていますので合わせてご覧ください。→第1部、→第2部、→第3部)
コンピューター史を紐解くと、必ず登場するのがゲーム。1つのコンピューターの開発動機や普及のきっかけがゲームだったということは珍しくありません。UNIXもスペーストラベルというゲームの移植が開発動機の一つだったと言われていますし、日本のコンピューター黎明期に家庭に最も普及した機種はファミコンです。
そこでvol.21では、コンピューターとは切っても切れない縁に
ある「ゲーム」をテーマとし、ゲーム業界に縁の深い4人のゲストを迎えての試合を行いました。
■前半戦 獅子王たちの夕べ&ジャングルバス.com
レポート前半となる今週はまず、登場したゲスト4人のトークをお伝えしていきます。
#1 伊勢幸一さん―既得権者の狩場になるのが我慢ならない!
最初は「獅子王たちの夕べ」のメインゲストとして迎えられた伊勢幸一@テコラスさん。題目は「技術とITジョブと私」です。
前歴はゲーム会社として有名なスクウェア・エニックスに勤務されていたということですが、元々はなんと日立系の設備会社で機械設計をされていたそうです。この経歴が後の仕事に活かされることになります……。
スクウェア勤務時代 ― サーバー構築からプロバイダーまで
1996年に旧スクウェアに転職。当時、開発ターゲットがスーパーファミコンからプレイステーションに移ったことで必要とされたシリコングラフィックス社製のコンピューター等を扱えるエンジニアが求められていたそうで、ワークステーションのセットアップはもちろん、周辺のサーバー・通信回線まで含めた開発環境の構築・管理、さらにはC言語やBourneシェル、Javaなどと使って運用ツールを書きまくっていたそうです。
翌年の1997年、SQUARE USAの設立に伴い、ハワイへ出向することになりました。任務は現地制作スタジオの立ち上げ。スタジオオープンを翌日に控えながら21インチモニター(ブラウン管)100人分をたった一人でセットアップする等の重労働もしたそうです。また、当時はラックマウントサーバーというものがまだ無い時代だったのですが、機械設計屋の腕を活かして筐体から中身の設計まで自分でやり、レンダリングファームの自作をやってしまったそうです。
2000年に帰国。PlayOnlineなどのオンラインゲームを展開する流れで、プロバイダー的なサービスの立ち上げを試みました。理由の一つは通信事業者に支払う費用(トランジット料金)が高かったためだったのですが、調べているうちその理由が明らかに……。実は2004年当時、ユーザー企業向け料金と通信事業者向け料金には約3倍の差が付けられていたのです。こんな事実を知らされれば誰だってふざけるなと思うわけで、「既得権者の狩場になるのが我慢ならない!」との思いが強かったといいます。
テコラス移籍後 ― 需要にマッチしたデータセンター提供を目指して
2013年、データセンター(DC)を立ち上げようという話が持ち上がりました。ところが試算してみると驚くほどに高い!ラック1台の調達コストは400~450万円なのに対し、DC建屋の建築コストはラック1台あたり700~750万円。投資回収に11年以上掛かる計算でした。
「これは箱(DC建屋)作ったら負けなんじゃないか?電源と回線のある場所にラックだけ持っていった方がいいんじゃない?」と、次第に考えるようになり、持ち運べるデータセンターを発想するようになったそうです。空いている建物に手軽に搬入・収容が可能、DCの柔軟なスケールアウトを目指した画期的な筐体。ここにも機械設計屋としてのスキルが活かされているといいます。合わせて運用技術を皆で合理化・共有するために日本MSP協会も設立しました。
これら活動の根底にあるのはやはり、「既得権者の狩場になるのが我慢ならない!」という思いでした。
既得権者に刈り取られてるだけではIT業界はいつまでたっても活性化しない。IT業界はIT業界で、正しいことを正しいように考えて提供する。
そう語り、定年までの残り数年間を頑張る決意をされていました。
#2 清水勲さん― 「モンスト」から見えたインフラ設計の大事さ
二番手は、あの「モンスターストライク」のインフラを手掛ける清水勲@ミクシィさんで、題目は中の人ならではの「モンストを支えるITインフラ」です。ちなみに清水さんは、“モン”繋がりで「モンハン」も大好きだそうですよ。
モンストのインフラを支える技術
日本で2100万人、世界で3000万人のユーザー(累計)を支える舞台裏の仕組みはどうなっているのでしょうか。
サーバーの種類は日本版はオンプレミス(オンプレ)比率が高く、一方海外向けはクラウドサービス(AWS)のみ。日本国内ではオンプレで運用してきたmixiのノウハウもあり、その方が費用対効果が高いというのが、理由の一つだそうです。
OSはUbuntu 12~14、4~20コアのCPUに8~192GBのメモリ、そしてSSD中心のディスクドライブで、アプリケーションサーバに関しては現在約200台ほど。CPUやメモリに幅がありますが、データベース用途のものにハイスペックなリソースを割り当てているそうです。
データベースはMariaDB 5.5等で本番環境ではRDSは不使用。アプリサーバーはNginx+Unicornということで開発言語はRuby。サーバー側アプリの開発にはMacOS Xを使い、GitHubにpull requestして、Jenkinsで自動テストを走らせる……、といった開発スタイルで1日に何度も本番環境にデプロイしているそうです。ところでmixiといえばPerlな印象がありますが、モンストとSNSは全く別物と割り切っているそうです。
リリース当初のインフラ設計はとても大事
ゲームのリリース当初のインフラ設計はとても大事だと言います。
先程、オンプレとAWSを使い分けている話がありましたが、AWSは必要なノウハウが既に大抵得られている一方で障害が起きることがあったり、そこしか使えない機能に依存していると他に乗り換えられなくなったり(=ロックイン)など一長一短があるので特性をよく理解しておく必要があります。
またゲームは突然流行り出すことがあり、当初からスケールアウトを想定した設計になっていなければ存続の危機に陥ることすらあります(業界内では実際に存続できなかった例があるそうです)。
……という感じで、モンストの舞台裏をたっぷり紹介してくださいました。また現在、一緒に舞台裏を支えてくれる仲間も募集中とのことです。興味のある方は、是非ご検討を!
#3 伊藤学さん― 地域活性で大事な事は町の人の自立した活動の後押し
三番手は、みんな大好きIngressのエージェント(プレイヤー)、かつIngressを活用した地域活性を手掛けているという伊藤学@STUDIO Freesiaさんで、題目は「INGRESSと地域活性とコミュニケーション」。Ingressのエージェントとしては青(レジスタンス)で活動されているそうです。
地域活性というキーワード
最近はちょっとした郊外においても、住民の高齢化やシャッター街化が進んでいます。しかも何とかしたくても、何とかする余裕も無いのが多くの地域での現状だそうです。一応地域活性を請け負う会社や団体もありますが、継続性の無い企画でお金だけを持っていってしまうせいか、地域の人たちには、よそ者には任せたくないという気持ちがあるそうです。
Ingressを活用した地域活性
そんな中、最近Ingressを活用した地域活性が一部の地域で試みられており、伊藤さんはその活動のいくつかに関わっているそうです。その一つが登戸(川崎市)の商店街。そちらで「はしご酒」というイベントがあるそうなのですが、そこでIngressを活用した企画を開催しました。
具体的には主催者側でミッション(編注:Ingressは、実際の地球上をスマホ片手に歩き回りながら進める陣取りゲームであり、さらにミッションと呼ばれるイベントの作成・参加ができる。ミッションとはいわばスタンプラリーのようなものである)を設定します。そして参加者は予めミッションをクリアしてから「はしご酒」に参加(チケット購入)します。すると抽選で、IngressモバイルバッテリーやIngress飴が当たるというイベントでした。効果測定の目的もあって、ゲームの報酬をリアルに結びつけたのが特徴です。
チケットは完売。Ingressで参加しに来た人に、「どこから来ましたか」と尋ねてみると、都内(登戸からは少し離れた地域)からという人もいたりするなど、Ingressの活用で一定の成果を収めることに成功。その甲斐あって、7月にも再び開催されることになったそうです。
地域活性で必要なこと
伊藤さんは地域活性に必要なこととして次の4つを挙げました。
- 地域の人との普段からの付き合い
- 地域活性でもたらされるメリットの明確化
- 町の人が後々自分達の手で(=自立)できる活性化の内容
- Ingressエージェントと町の人とのリアル交流
このようなことを意識しつつ、活動をされているということでした。
#4 竹迫良範さん― MineChanがスゴすぎてコワい
最後に順番が回ってきたのは、竹迫良範@サイボウズ・ラボさん。実は以前TechLIONvol.3に出場されていて、再出場となるのはTechLION史上2人目です。さて、題目は「オンラインゲームのチート行為は悪なのか?」です。何やらアヤシい香りがします。
MineChan(マインちゃん)
竹迫さん、突然問題を出題しました。
Q. 世界で一番プレイされているゲームは何でしょう?
- パズドラ?
- やっぱモンストでしょ
- それともマインスイーパー?、
:
正解は、実は4番のソリティアです。(←!!!)
しかしソリティアから話を膨らませるのかと思いきや、3番のマインスイーパーのチートツールを披露し始めました。その名はAcme::MineChan(マインちゃん)。Win32::GuiTestというモジュールを使ってWindowsの入出力デバイスを乗っ取り、プログラムにマインスイーパーを高速で解かせてハイスコアを総なめにするという、非常にけしからんプログラムです。
なぜチートは「悪」とされるのか
しかしこのようにしてPerlを使えば、Windows上で各種オンラインゲームのチートツールはいとも簡単に作れてしまいます。ゆえに過去にはperl.exeを遮断するオンラインゲームまであったそうです。とはいえ、チートは様々なレイヤーで行うことができます。ネットワークレイヤーでパケットを偽装したり、ゲームコントローラーの回路に細工をしたり、あるいはボタンを押下する機械を取り付けて物理的にチートしたりと、キリがありません。
そもそもなぜ、チートは悪とされるのでしょう?ゲームバランスが崩れてチートツールを使っていない多くのプレイヤーに不公平感が生じるため、あるいはリアルマネートレーディングで金を荒稼ぎする手段に使われるからでしょうか?……しかし例えばそれなら、ナゼ株式市場におけるプログラム取引は規制されないのでしょうか? ナゼYahoo!オークション自動入札プログラムは規制されないのでしょうか?
機械は既に人間を支配している?
規制するしない以前に、人間は既にコンピューター(機械)に支配されているのかもしれません。プログラム株取引が普及しているということは会社の経営権は機械が握っているようにも見えますし、その機械はデータセンターという名の冷房完備かつ、緊急時には24時間エンジニアが掛けつける超高級ホテルで暮らしています。
◇ ◇ ◇
最後のトークはなかなか考えさせられます。ひょっとすると既に人間とコンピューターの間で、チートという名の壮大なゲームが始まっているのでしょうか。
それにしてもこうして本日の4選手のトークを振り返ると、仕事でも日常でも、人間はゲームといかに頻繁に関わりながら生活しているかということを改めて実感させられます。本質的に人はゲームが好きなのかもしれません。
というわけで、ゲストの皆様ありがとうございました。この後引き続き後半戦が執り行われましたが、その模様は次週レポートいたします。お楽しみに。