インフラを司る仕事とプロトコル

取材班のまつうらです。

久しぶりに開催レポート以外で当番がまわってきましたが、前回のvol.16に参加して以来、今度まわってきたら書こうと思っていたことがありまして、今日はそれを書きます。

■インフラを司るプロトコル IEEE1888

前回vol.16のゲストのお一人江崎浩先生が、東大で70%の節電を達成したという話をされていましたね。そして、これを担うプロジェクトは「東大グリーンICTプロジェクト(GUTP)」といい、IEEE1888というTCP/IPベースのプロトコルが基盤になっている、と。

旧来のアナログ的な技術をデジタル由来の新技術に置き換えることで、今まで考えられなかったことがいろいろ実現できる

ということもおっしゃっていましたが、IEEE1888は主にビルオートメーション(BA)と呼ばれる分野でこれを推進する技術です。そして私は、先生のおっしゃっていた「アナログ的」な方のBA設備を保守する仕事をしています。

1. ビルオートメーション(BA:Building Automation)とは

一言でいうなら、建物の設備をコンピューターで制御する仕組みです。代表的なものの一つは空調。建物の各所に取り付けてある温湿度センサーからの測定値、天候(外気)、建物の利用予定、電力使用量や昼夜の料金など、様々なデータを集め、各部屋や機械室にある空調設備を緻密かつ的確に制御して、快適かつ経済的な空調を実現したりします。

今どきの建物では、こういった空調等の設備制御は大抵コンピューター化されています。また一定以上の延べ床面積を持つ建物では法律によって設置が義務付けられてもいます。もしこういった設備がなければ、建物で仕事をする人々の生産効率が落ちて経済的損失を生むでしょうし、病院や高齢者介護施設では熱中症や風邪が流行って居住者の命を奪うことにもなりかねません。また、データーセンターでこれがなければサーバー・ネットワーク機器にもよくないですよね。このようにBAは社会的重要性が大きく、まさにインフラです。

制御盤の一種
ビルの壁によくついている制御盤の一種(これは火災報知用)
中央監視室
ビルのどこかに大抵ある中央監視室(奥の作業員が眺めているのが中央監視端末)

BA設備はどこにあるかというと、建物内の壁にくっついている温湿度センサーであったり、廊下や地下・屋上にある謎の箱(制御盤)や扉の向こう(機械室)の装置であったり、警備員が詰めている警備室や中央監視室と呼ばれる一室にあります。あなたの学校や職場にもきっとあるんじゃないかと思います。

2. BA機器が皆HTTPを喋ってくれたら

IEEE1888は今研究・発展している最中の次世代規格であり、世の中のBA設備で採用されている例は現状殆ど無いと思います。ゆえに私は専ら旧来のBA機器を保守していますが、TCP/IP、HTTP、XMLなどがベースになっているIEEE1888がBAの現場に普及していたらどんなに便利なことか、と常々思っています。

理由の一つはまず価格。先生もトークの中で「配電盤たった一つで何十万もすると聞いて信じられなかった」というようなことをおっしゃっていましたが、まさにその通りでBA機器の一つ一つが非常に高額なのです。ビルのオーナーさんから、何とか安く抑える方法はないものかと相談を受けることもあるくらいです。BA機器が皆HTTPを喋るようになったら制御盤の多くが単なるハブやルーターに置き換えられ、中央監視コンピューターはオープンソースOSなホストの上に載るアプリに置き換えられ、劇的に安くなるだろうと思います。

もう一つは通信のオープン化。BAの現場でもトラブルが起こって機器と格闘するということはよくあって、そんな時は原因究明のためにとにかくデータを集めます。しかし、独自発展してきた技術の上にあるため、ベンダごとの専用の操作器具がなければ、信号が取り出せなかったり、取り出せてもどんなプロトコルになっているのかさっぱりわかりません。HTTPやXMLベースのテキスト通信だったらずっと見通しがよくなることでしょう。

3. 枯れた技術になる日を期待して

インフラという社会的に重要な部分を担う技術には、まず安定性が求められることは言うまでもありません。それゆえ、高かろうと不便だろうと、旧来の「枯れた技術」が採用されることになります。旧来の技術は、長い年月に経験してきた「痛い目」に基づく対策が取り込まれ、地味に進化していたりします。

そういった意味でIEEE1888も、「痛い目」の湧き出る泉を一日も早く枯らし、枯れた技術として認められる日が訪れるといいなと思います。

■次回のTechLIONは6/26だ!

そんなかんじで、いつも興味深いトークを聴かせてくれるTechLION。次回vol.17は、6/26に開催されます。

このvol.17に関して新たなお知らせですが、当日の演題と概要が決まりました。詳しくはvol.17の告知ページをチェック。

個人的には第2部の試合に興味津々! Ruby、Python、PHP、Perlのイベントのキーマン達を招き、我らが法林GMも一人のパネリストとしてこれを迎え撃つという、すごい対戦カード。私個人はPerl推しなのですが、皆さんはどのLLを推しますか?

お申し込みは↓こちら。各LLを推す選手達の熱いトークバトルを是非観戦しにきてください。

TechLION vol.17

さてリレーのバトンはもう一つのLLとも言うべきシェルスクリプトの猛者、上田さんにお渡しします。お楽しみに。

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