こんにちはUSP MAGAZINEの取材班 まつうらです。村井先生セッションの前半戦レポートはいかがだったでしょうか。お読みいただいて、このイベントの方向性やノリが伝われば幸いです。(まだ読んでいない方は是非)
今回は先週に引き続き、11/16(金)に開催しましたTechLION vol.10のレポート(後半戦)をお届けします。当日の模様を録画した動画もありますので是非あわせてご覧ください。
■後半戦、ITサファリパーク
さて、後半戦のはじまり。今回はvol.6と同じく「ITサファリパーク」です。
これは、サファリパークに来たかの如く、次々に登場する今注目の若きITエンジニア達と対談していくセッションです。前半戦で語る側だった村井先生も左写真のようにしてコメンテーターとして司会側に回り、愉快にトークしていきます。(司会側に回ったはずが、司会にツッコミを入れられるシーンも→上記動画の35:17あたりから)
今回招かれた3人のエンジニアの皆さんも、仏具を磨くのが趣味だったり、一人一人が世界各地域に分散しながら働く会社で仕事をしていたり、自宅の風呂が主な仕事場だったり、と非常にユニーク!そして、自由でアクティブ。では、いきましょう。
#1 片山暁雄さん―AWSは「一家に一台成型機」を実現した
お一人目は片山暁雄@アマゾンデータサービスジャパン さん。AWSのサービスを提供する仕事の傍ら、そのユーザーコミュニティーであるJAWS-UGでも精力的に活動されています。それと、個人なのにナゼか#ヤマンというハッシュタグが付けられているそうですよ。
まずは自己紹介ということで、小学生の頃の話から(どういうわけか、TechLION出場者って小学校まで遡って話し始める方が多いです)。……ひたすら仏具を磨いていたそうです。「この真鍮のテカリが~」とか「これが世界だ!」みたいな感じで。やがて趣味が高じて大学は金属工学科、卒業後は南京錠を製造する会社へ。ところが配属されたのは鍵は鍵でも車のドアの取っ手部分、樹脂(=非金属)だったそうです。
非常に残念な思いはしたものの「それでも技術は磨きたい!」。製造現場の樹脂成型機を好きなだけ弄りたかったものの、適いませんでした。動かすのも原材料もタダではないからです。自由に技術を磨ける場を求めてIT業界へ!そこでやがて巡り合ったのがオープンソースの世界とAWSだったといいます。
AWS上には何でもあります。独り占めできるホストは勿論、ロードバランサー、CDNなどなど。しかもパソコン一台用意するだけで誰でも弄れるのです。さらに、使った分だけ課金なので膨大な初期費用も不要。こうしてまた一つ、技術が個人の手の届く高さに降りてきたという意味で革命的な出来事です。
そんな環境が手に入る時代、ユーザーグループの存在はますます重要になってきました。AWSには様々なソフト・ハードがありますが、Amazon自身が活用法を全て網羅しているわけではないからです。各分野に詳しいユーザーと、一緒になって新たな活用法やノウハウを積み上げていく必要があります。そんなこともあり、2009年にJAWS-UGというユーザーグループを立ち上げ、3年経った今年、気がつけば国内24支部になり、世界的に見ても活発なコミュニティーになっていたそうです。
まさに「一家に一台成型機」の精神ですね。JAWS-UGの盛り上がりは、そこに共感する人々の多さを物語っているように思います。
#2 高野直子さん―分散して働くことでわかったことがある
続いて登場したのは高野直子@Automattic さん。以前はマクラケン名義で活動されていましたが、直子さんといえばWordCamp等、WordPressに関する活動でご存知の方も多いのではないでしょうか。直子さんのトークで特に興味深かったのは勤めている会社と、肩書き、そして働き方でした。
所属されているAutomatticという会社。WordPress等のオープンソースソフトウェア開発への貢献やホスティングを主な業務としている社員130名程の会社なのだそうですが、社員一人一人が世界中の各地域に分散して働いているのです。(会社案内ページの一番最後にその様子が……)何故この形態がとられたかと言えば「この仕事に適したスキルを持つ人が世界中でオープンソース活動しており、一国で人を雇うより、彼らを雇う方がメリットだったから」といいます。
また、直子さんの持つ肩書き「ハピネスエンジニア」。実のとこと具体的に何をしなければならないかということは全く決まっていないそうです。今は日本のユーザーにWordPressを使ってもらうための翻訳や国際化、サポート、それにWordCamp等のコミュニティー活動などをされているそうですが、ゴールは「ユーザーを幸せにすること」であり、それらの業務が目的ではないといいます。
こういう非常に自由なスタイルで仕事をしている中で見えてきたこと。それは、当たり前のように聞こえますが「コミュニケーションがいかに重要か」ということ。普段から社員同士が離れて仕事をするため、いかにコミュニケーションをとるかということも重要なテーマ。例えば以前、社員同士のやりとりツールとしてTwitter等を使っていたものの、自分達が求める要求をいまいち満たせていないと感じ、ついにはWordPressのテーマという形で独自に作ってしまった程だそうです。これも、離れているからこそわかることだといいます。
またコミュニティー活動に関わる中で、先程のJAWS-UG同様、やはり日本のコミュニティーの強さを実感したそうです。イベントなどはっきりした目標があると皆一丸となってやるぞという雰囲気で。そもそもWordCampが一カ国で年何回も開かれ、その度に数百人以上集まる日本は珍しいケースなのだそうです。
半分ノマドワーカーやってる筆者からしてもその働き方はとても魅力的です。そしてこういう働き方であるほど、コミュニケーションの重要性が人一倍見えてくるものなのだなあと思いました。
#3 増井雄一郎さん―全てを失っても仕事のできるエンジニアに
本日後半戦の最後は増井雄一郎(masuidrive)@FrogApps さん。紹介するにあたって所属(@~)を記してみたものの、増井さんがトークで話していた目標や生き方からするとあまり意味がないのかもしれません。テーマが「どこでも生きていけるエンジニアを目指して」だったのです。(→当日の資料(マインドマップ))
masuidriveこと増井さんといえば、風呂でプログラミングをする「フログラミング(風呂グラミング)」或いは「フログラマー(風呂グラマー)」として有名です。が、それは純粋に風呂が好きだからというのみならず、エンジニアとして生きていくうえでのある戦略であることも窺い知れました。
増井さんはRubyの他、PHP、Java、C/C++/ObjectiveCなど実に多様な言語を使うほどに技術に対する好奇心が旺盛で「ほっとけばやっている」ものの、そうやって多くの技術に興味を持つ故なのでしょう、「飽きっぽい」そうです。つまりやりたいことが次から次へと現れては移っていくことに。それ故に個人的な目標は、いかにして好きなことして暮らしていけるかであり、常にそのことを考えているそうです。
そんな自分のこれまでを振り返ると何をしてきたか。色々話をされていましたが、オープンソース活動に携わったり(その一つが有名なPukiWiki)、人々の興味を引くブログをつけたり、作りたい物リストを公開してみたり(それを見た企業の誘いで実際に製品を作ったことも)など、オンライン的手段を上手に活用したそうです。(フログラムもその一つ)そうやって知名度を上げることで自分の技術を買ってくれる人を探して大事にし、「自分が今持っているものを全て失ってもすぐ仕事ができる下地」を築いてきたといいます。
「今後は海外でも仕事ができるようになりたい。なぜなら自分のやりたいことがニッチになればなるほど、国内の需要に重ねることが難しくなるから」
最後はそう語っていました。「やりたい事だけやるなんてそんなの甘いよ」などと思うかもしれません。しかし、その欲求を忠実に守るため、しっかりとした戦略を描き、実践していることはむしろ素晴らしいと思いましたし、羨ましいです。ちなみに、村井先生から「あのさ、海外で『フログラミング』ってなんて説明するの?」って質問を受けた際「ちゃんと説明したんですが、何人かに『ハードコアだね』って言われました」と返していたのが面白かったです。
エンジニアって「好きなことをやる人」のことだよ
今日の3人がこうしてとても生き生きとしたエンジニアライフを送っている様子を聞き、村井先生がこう言いました。
エンジニアの定義って何だと思う?……好きなことをやるのがエンジニアなんだよ。 さっきの「ハピネスエンジニア」ってのそうなんだけど、今日のゲストみんなハッピーでしょ。法林さんもツッコミばっかりやってるからハッピーだよね(笑) 日本が世界にどれだけ貢献できるかってのも、やっぱり「どれだけ好きなことをやれるか」だと思う。
(中略)
それとね。このあいだ山中さんノーベル賞とったけど、俺サイエンティストとエンジニアにはそう敵はいないと思うんだ。それ以外は大体何やっても敵がいるんだよね。だからこの2つは結構ハッピーだと思うんだ。
残念ながら実際のところ、ハッピーなエンジニアライフを送れていない人々は今も多数います。しかし先生が言わんとしている内容、わかります。自ら幸せを感じられるような成果を上げることこそがエンジニアの仕事なんだと、私は受け止めています。また、サイエンティストやエンジニアは、それが許される数少ない、恵まれた職業なのだと。
このTechLIONというイベント。そもそも「ハッピーなエンジニアライフを送るにはどうすればいいか」これを皆で探っていくイベントだと思っています。そのために、今輝いているエンジニア達を招き、彼らの話からそのヒントを得られれば……。多くのエンジニアがその答えに辿り着けるよう、私達はこれからもTechLIONを開催していきます。
■今年も一年ありがとうございました
今回のvol.10に参加していただいた皆様、そして今年も一年、TechLIONを応援し、支えてくださった皆様に心より感謝を申し上げます。
最後に毎回恒例の出場者記念写真を添えて、vol.10レポートの締めくくりとさせていただきます。(マウスを重ねるとファイティングポーズ!)
皆様ありがとうございました。
そして……、
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