vol.21報告(2/2)―会場から、ネットの向こうから、ゲーム業界の舞台裏への質問が集まった

TechLION取材班まつうらです。先週に引き続き、5/25に開催されたvol.21の模様の後半戦をお届けします。この模様は動画でも公開しておりますので、是非合わせてご覧ください。

Ustream配信中
いつもこんな感じで生中継。今回は2会場でパブリックビューイングが実施されるとあって、スタッフはより緊張したそうです

vol.21ではコンピューターゲームに関わる活動をされている4人のゲストを招き、「ゲーム」というTechLIONでは初めての分野を取り上げていますが、今回のTechLIONでは初めてなことが実はもう2つ。かつて出張した地、大阪と名古屋の2会場でパブリックビューイングが実施されていたのです。(Ustream等を使って簡単に実現できるようになり、いい時代になりましたね)

もう一つは、後半戦(第3部)を特に議題を設けずに質疑応答の時間としてみたこと。やってみるとITの現場で活躍する獅子達が揃えば話は尽きぬもので、さらにパブリックビューイング観戦者から質問も届いて大いに盛り上がりました。

■後半戦 ジャングルバス.com (質疑応答パート)

ゲーム運営の舞台裏の体制や技術に関する質問、チートにどう対策しているかという質問など、たくさんの質問が、会場内から、さらにインターネットの向こうのパブリックビューイング会場から寄せられました。全てをお伝えすることはできませんが、特に面白かったものを選りすぐってお伝えします。

15時のピーク

ある日のDBアクセス
前半戦で示されていたモンストのトラフィック。確かに毎日15時頃に小さなピークが見られる。

観戦者:清水さんのスライドにあったモンストのトラフィックで、15時にピークがありましたがあれは何が原因なのでしょう?
清水:15時に限った話でもモンストに限った話でもないのですが、ゲーム内にいろいろイベントがあって、それがたまたまああいうグラフになっていたのかな、と思います。「この日時にこういうイベントがある」っていうのを通知してくれる機能があって、通知が来ると集中します。
伊勢:恐らくそれは逆だと思います。一般的な会社には15時に休憩があってトラフィックが上がります。それで運営は、トラフィックが上がる、つまり人が増える時にイベントをかますというのが常套手段ですから。

オープンソース vs プロプラエタリー

観戦者:運用管理でオープンソースソフトウェア(OSS)を使う機会が増えてきてますが、ここだけはどうしてもプロプラエタリー(=商用の非オープンな)ソフト(例えばJP1とかSystemwalkerとか)を使わざるを得ないってことはあるんでしょうか?
竹迫:まぁ、ExcelとWordですよね(笑)。あれはぜったい外せないですね。
伊勢:基本的にはないですけど、自分のスキルが及ばないとか責任を取りたくない部分にはプロプラエタリーを使うというのは基本ですね(笑)。
法林GM:伊勢さんが関わられてた頃のゲーム開発ではもうちょっと商用のものが多かったりしませんでしたか?
伊勢:僕がやってた頃は今のようにスマホじゃなくてコンシューマーゲーム機だったので、SDKはプラットフォーム提供元のものを使わなきゃいけないという決まりがあったんです。でも開発環境はほぼOSSでしたね。プレイステーションのコンパイラーはGCCですし……。システム運用に関しても、商用のパッケージを使うってことはほぼなかったですね。
清水:モンストの場合、サーバーで使うソフトはトークで紹介したとおり全部OSSですね。強いていうならクライアントのOS、MacOSだったりWindowsだったりがプロプラエタリーですけど。他社さんでVMwareを使っているという例も多少聞きますが、やっぱりあまりないですね。
(それに対し、会場からこんなツイートが……)

清水:HipChatとか、そういったSaaSで提供されているものは確かにオープンソースではないですね。そこは補足ということで。
伊勢:そうですね、SaaSはありますね。サービスとして提供されているものを月額で払って使うっていう利用形態は確かにありますね。逆にそっちの方にシフトしているかもしれませんね。
竹迫:私はSlackとか使ってますね。
馮P:ChatWorkとか使ってるところもありますよね。

パブリックビューイング会場からも質問が

馮P:大阪からの質問で、モンストのデータの削除についてもう少し詳しく教えて欲しいという質問が寄せられています。

清水:サーバーを運用しているとデータベースのデータがどんどん増えいくんですが、容量も無限じゃないので削除も並行してやっています。書き込みと削除は常に同時に動いている状況なのでが、そのバランスが難しいです。
馮P:その削除のスピードは、やっぱり人間が決めているんですか?
清水:そうですね。例えば1秒に何件削除するか試行錯誤したり……。削除によってもデータベースの負荷が上がりますので、削除のしかたにもすごく気をつかっています。気を抜いた隙に、がーんと負荷が上がっちゃうなんてことがあるとゲームが成り立たなくなりますのでとても大事なところです。
法林GM:ということだそうです、大阪の皆さん。

ユーザーサポートの取り組み

観戦者:ゲームというユーザーに近いジャンルのサービスで、ユーザーサポートに関して気をつけていることはありますか?
清水:サポート用の開発メンバーがいます。「サポート業務をするにあたってこういうツールがないと効率よくサポートできない」といったことがありますので。例えば障害が発生して何かを補填してあげるみたいなことがありますが、手作業でやってるととても追いつかないということがありますので……。何もトラブルが発生しないということは有り得ませんので、こういう体制を敷くことは必須ですね。
伊勢:サポートってたぶん2種類あって、1つはトラブルに対するサポートで、これは真摯かつ迅速に対応するのは当然。ですが、もう1つは世のゲーマー達が某掲示板やソーシャルメディアで「このゲームはゲームバランスがクソだ!」とか言って炎上するやつです。IBMの人が言ってたんですけど、そうやって叫ぶ人っていうのは全体の10%いないらしいですよ。その10%のユーザーの意見をゲームシステムに反映すると逆にゲームのバランスが崩れてくるので、すべてのユーザーがどう思っているのかを冷静に判断していく必要性がありますね。
でも某掲示板やソーシャルメディアで盛り上がっちゃうと、やっぱりサポートの人はだんだん心が傷んできちゃうんですね。それで「これ対応しちゃおっかなー」みたいなことになると多くのユーザーにとっての面白味がなくなりかねないのでそこは注意しないと。
法林GM:やっぱりブレない心というか……
伊勢:誰が言ったかじゃなくてやっぱり、何が正しいのかっていうのを根拠にゲームバランスをとりつつ運営をしてくのが必要かなと思います。

チートの何がいけなくて、それとどう向き合う?

第3部 質疑応答観戦者:チートの定義、特に自動化っていうのはわりとチートと見なされがちですけど、それでバランスが崩れちゃわないような対策とかありますか?
竹迫:スマートフォンなどの最近のゲームは詳しくないんですけど、数年前はアイテムのプレゼント機能とかがあって、ユーザー同士でアイテム交換ができたんですが、それがリアルマネートレーディングのきっかけになっていました。メッセージ機能を併用し、「お金振り込んでくれたらこのアイテムあげますよ」みたいな。でも「お金を払ったのにアイテムがもらえない」といったトラブルも発生し、最近のゲームは交換機能がなくなってきました。だからある意味ソーシャルゲームじゃないんですね、最近のものは。そうやってソーシャル機能をなくすこで、自動化によるチートのモチベーションをなくしていくって感じですね。
ただ、もともとアイテムって架空のものですからチートが横行しても運営業者が不利益になるわけじゃなく、他のプレイヤーも損するわけではないので、チート対策は不公平感の是正ですね。
伊勢:不公平感が強まってくると、結局お金を出して正当にプレイしている人たちは離れていっちゃうので、そこには不利益がありますよね。運営側としてはせっかく苦労して作ったオンラインゲームなので、なるべく寿命を延ばして長い間稼ぎたいわけで。チートされてもリアルマネーは減らないんだけど、稼げる期間がどんどん短くなっていっちゃうので運営は必死にチートを防ぐ、と。

ところでIngressのFFって、チートっぽくない?

Ingress飴
複数アカウントエージェントを捕まえるのにも活躍したというIngress飴。この写真の黒の他、青、緑と3種類。この後会場でも配布してくださいました。

観戦者:Ingressについて聞きたいんですが、FFってあれはチートに近い気がするんですけどいかがでしょうか?
伊藤:まず“FF”っていう言葉が何なのっていう話からですよね。FFというのは「フラッシュファーム」という用語の略です。ポータル(編注:現実世界の主要な建物や施設に結び付けられたIngress上での場所)と呼ばれる場所にレベル8以上の人が8人集うとポータルレベルを最高の8にすることができるので、皆で共謀してハック(編注:ポータルからアイテム取得)すると最高のアイテムがいくらでも採れるようになります。これがチートじゃないのか、ということですよね?うーん……、どうなんでしょうねぇ?
竹迫:Ingressは一人で複数端末持つのはアリなんですか?
伊藤:複数のアカウントを持つのはNG、ってことにはなってますが……
法林GM:技術的にはできちゃう事ですか?
伊藤:ええ、端末持っていれば。実際私もを使って複数アカウントの人を捕まえたことありますけども。
法林GM:なんかおとり捜査みたいですね!
観戦者:FFをきっかけとして集まったり、それ用のハングアウト(編注:一言でいえばSkypeやLINEのGoogle版のようなもの)もありますよね。
伊藤:そうですね。実際にそういうやりとりがあったりとか、ミーティングが定期的に行われたりだとか……。あとは「自宅ポータル」っていって、自宅にいながらアクセスできる範囲内にポータルがある人が、家でコタツに入りながらそのポータルをレベル8にして、協力者にアイテムを分け与えていくなんてことをやっている方々もいます。
しかもIngressはお金を払ってプレイするものではないので誰も損しないという。なので、最近ウチの周りはよく焼かれます(編注:ポータルが攻撃される)。みなさんがどこかでアイテムを補給して、ぜんぶ潰していくという……。直すの大変なんです。
法林GM:Ingressだという前提なしに聞くと凄い物騒な話に聞こえますね。
伊藤:海外だと、アイテムをリアル通貨で販売するっていう話は確かにありますね。
法林GM:それはアリなんですかねぇ……
観戦者:海外だと、ミネラルウォーターを買うとアイテムが貰えるっていう販促ツールとして使われてたりもしますよね。
伊藤:今度7/7からローソンさんでもパスコード(編注:ゲーム内でアイテム等が貰える番号)付のグッズが出たりしますね。……って、何で私が宣伝してるんだろ(笑)

◇ ◇ ◇

ユーザーとしては楽しくプレイしているゲームも、裏ではいろいろ考えなければならないことがあるんですね。トラブル対応やサポートもそうですが、ゲームバランスや何をもってチートとするのかといった単純には答えを出せない議論もあって、興味深い内容でした。出演してくださった皆様ありがとうございました。

(下の写真は、毎回恒例の出場者記念撮影。写真にマウスカーソルを重ねるとファイティングポーズをとります。伊勢さんが個性的!)

■次回は8月、京都に遠征します!

さて次回TechLION vol.22は、ひさびさに東京を抜け出し遠征します。場所は京都。京都といえばあのゲーム会社……、ではなくて(いや、さすがに次回もゲームというわけには)、ホラ、IT業界人にはとても有名なあのサービスを展開している会社があるではありませんか。

次回予告ということで、株式会社はてな大西康裕さん。それから、京都といえばここも外せない京大マイコンクラブPasta-Kさんのお二方が参戦します。いや、まださらにお二人くらい参戦する予定です。

詳細な日時と場所は、8/7(金)、京都スワロウテイルです。お近くの方はもちろん、そうでない方も是非ご参加ください!お申し込みは、下記の参加申し込みフォームから。

TechLION vol.22

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