2年ぶりの地方遠征!京都・鴨川近くのライブハウスでアツい夜を
TechLIONプロデューサーの馮です。こんにちは。暑いですね。ほんとに。
そんな暑さを吹き飛ばすぐらいアツい夜を京都で過ごしてきました。そう、TechLION vol.22@京都。TechLIONとしては2年ぶりの地方遠征です。会場となったスワロウテイルは満員で、たくさんの聴講者の前で、京都および関西に縁のある4名のスピーカーが、アツいトークを繰り広げました。
さっそく当日の模様をお届けします。
約40年の歴史を持つ伝統クラブの裏側に迫る
~京大マイコンクラブ今昔物語
乾杯!乾杯!乾杯!
いきなり3回の乾杯で始まったTechLION vol.22、最初のセッション。
これはトップバッターを務めるPasta-Kさんが所属するKMC(京大マイコンクラブ)に伝わる乾杯のスタイル。1977年に設立以来、約40年続いているこのクラブの変遷について、設立当時はまだ生まれていなかったPasta-Kさんが、さまざまな出来事とともに振り返りました。
KMCが設立したのは今から37年前、まだ昭和、そして日本が高度成長期を終え、安定成長期に入るタイミングでした。11名でスタートしたKMCは、その時代その時代の文化や技術をふまえながら多くの学生を輩出し、日本におけるコンピューティング文化をけん引する団体の1つとして確固たる地位を築いてきました。ちなみに、冒頭で紹介した「乾杯!×3」(乾杯三唱)というのは、1982年に初めて行われ、今も続く伝統となっているそう。「このころから、新入部員を受け入れる体制が整備されて、今の礎が築かれたと思います」とPasta-Kさんは当時を思い描いてコメントしました。
また、1984年には部室に家宅捜索が入るなど、さまざまな出来事があった中、インターネットという観点で大きな出来事となったのは1998年にISDN化、1999年にドメイン取得、2000年にKMC専用Webサイト公開を行ったとのこと。まさに日本のインターネットやWebの歴史と重なるところでもありますね。ちなみに、1998年には『Software Design』での連載もスタートしています。
2000年代に入るとコミックマーケット出展(2002年)、部員のプロジェクトが未踏ソフトウェア創造事業に採択(2005年度上期)、ACM 国際大学対抗プログラミングコンテスト(ICPC) 世界大会14位入賞(2006年)など、外部への展開や情報発信を積極的に行っていくようになりました。
KMCの部員は総勢130名(幽霊部員含む)で、実は京大生でなくとも、部費を払って承認されれば入会できるとのこと。これは意外でした。
あっという間の30分で、Pasta-Kさんは「今はKMC出身の人がIT関連の企業で活躍していることも多く、昨年は学園祭のKMCブースにPepperが展示できるなど、可能性が広がっています。自分たちもぜひ続いていきたいですね」と歴史と伝統のあるKMC部員の一人であることを誇りに思うコメントで締め括りました。
はてながインターンに力を入れるワケ
~はてなとインターン
次に登場したのは、京都のIT企業として注目を集める株式会社はてなの執行役員サービス開発本部長でもあり、創業メンバーの一人でもある大西康裕さん。
大西さんは2001年に現代表取締役会長の近藤淳也氏らとはてなを創業し、今に至ります。京都で立ち上げた後、本社を東京に移すなどしながら、現在は京都(本社)と東京(支社)の2ヵ所に拠点を構えており、社員数は京都51名、東京39名とのこと。
このように企業として成長する中で、はてなとしてITやインターネット業界に、そして社会に貢献できることは何か?として始めたのが今回のテーマでもある「インターンシップ制度(以降インターン)」です。
2015年現在、多くのIT企業がインターンに取り組んでいますが、はてなはこうした企業の中でもいち早く2008年に第1回目のインターンを行いました。
「当時は初めての取り組みだったので、私たち自身も手探りでした。インターンは1セット4週間で行うのですが、最初のときはその感覚がわからずに、8月と9月の2セットを行ったんです。今思うと無謀でした(苦笑)」と大西さんは振り返ります。
というのも、インターン自体は会社全体で取り組む事業の一環ではあるものの、当時はエンジニアの数が10名未満、インターンの学生が10名と受け入れ側のほうが人数が少ないという状況で、かつ、通常業務の中での新規取り組みだったので、それは大変だったそう。「死ぬかと思いました」という、どこまで冗談なのかわからないコメントも聞けました。
年々継続していく中で、インターンの内容が充実してきています。実プロジェクトへのアサインはもちろんのこと、職域に応じたプログラムなど、目的に合わせた内容に落とし込まれているそうです。さらにインターン期間中はイベントもたくさん予定していて、成果による表彰や歓送迎会といったものから、遠方からの学生さん向けには休日の観光やハッカソンも用意されています。このあたりは、経験値の高さがあるからこその充実度ですね。
大西さんはインターンの意義について「今の世の中、Webサービスを勉強するための情報やツールがネットにはたくさんあり学ぶ機会が増えていますが、実際に動いているプロジェクトに参加する機会はまだまだそれほどありません。私たちが用意するインターンでは、参加することで実際のプロジェクトを体感できるようにしており、これこそがインターンの意義であり価値だと考えています」と説明しました。
また、はてなのインターンを経験した学生の中には、現在、はてな内外で活躍しているメンバーが多数いるそう。こうした状況について「私たちはインターネットで多くのことを学んだので、(インターンを通じて)インターネットで返せたら嬉しいです」と、さまざまな困難を伴いながらも、一個人としてインターンに積極的に取り組んでいる姿勢が大西さんのプレゼンテーションから伝わってきました。
TechLIONが開催されたのは8月7日で、翌週8月10日からは今年のインターンが始まるタイミングで「これ(TechLION)が終わったらすぐに準備です」と、大西さんはもうすでに次のインターンに向かっているのが印象的でした。
勉強会やセミナーの意義ってなんだろう?
~勉強会とかセミナーとか
休憩を挟んで3番目に登場したのは、今回唯一京都府外、大阪からの参戦となった合同会社かぷっと代表の川合和史さん。
川合さんはMCを務めた法林GM、そして私、馮ともさまざまなところでの接点が多い間柄。とくに法林GMとは、関西オープンフォーラム(KOF)という関西のITイベントに関して運営として一緒に活動したり、実際にセッションのMCを2人で務めるといったことをしています。私もKOFでお二人がMCをしているステージに登場した他、川合さんが主催しているWeb系イベント「まにまにフェスティバル(通称まにフェス)」のスピーカとしてお招きいただいたこともありました。
そんな背景もあったことから、このセッションでは「なぜ勉強会やセミナーを行うのか?」という本質的なテーマについて、三者による運営視点でのトークが繰り広げられました。
川合さんは勉強会やセミナー(以降イベント)の運営について次のようにまとめました。
まず、最初に何をするか決める/とりあえずスケジュールから決める。次に場所を決める。協賛をつのる。告知する。あとはがんばる。
「とくに最後のがんばるということが大事です(笑)」とした上で、さらに豊富な経験を持っているからこそのコメントがありました。それは「イベントが終わったあとに余力を残しておく」です。
どういうことかというと、イベントというのは終わったときに達成感と疲労感が襲ってきて、そこで終了となりがちなもの。しかし、運営者としてはそこで終わりではなく、イベントが終わったあと、関係各所へのフォローアップが求められるのです。たとえば、登壇してもらったスピーカーや参加者への御礼、会場撤収や諸々の精算などなど。
この点については法林GMも「ゴールから200m走る力を残しておくことが大事ですね」と相槌を打っていました。
そして、なぜイベントをやるのか?については、「自分の場合は、個人的になんとなく、やりたいから」と川合さんは述べ、「だから、自分がやりたいことをやりたいペースでできるイベントにしている」と、説明しました。
さらにイベントを開催するメリットとして「自分が知りたいことを知れるのはもちろん、自分も参加者もたくさんの人と出会え、また次の世界が広がる可能性が高まる」と、イベント運営の醍醐味について経験とともに紹介しました。加えて川合さんは「私は積極的にガンガン話しかけるタイプじゃないですが、それでも場(イベント)をつくることで自然と出会いを生み出せます」という、また別視点でのメリットについての話も印象的でした。
最後に、今年のKOFの開催日(2015年11月6、7日)とまにフェス(2015年12月19日)の開催をアナウンスしてセッションを終えました。関西方面の皆さん、足を運んでみてはいかがでしょうか?
その認識あってますか?
~技術者にとってのセキュリティとプライバシー
トリを務めたのは立命館大学情報理工学部教授で、過去に総務省での通信規格とセキュリティ政策担当も務めた実績を持つ上原哲太郎先生。
上原先生はトップバッターのPasta-Kさんと同じくKMCに在籍していて(27年差とのこと)、元KMC顧問でもあります。ちなみに現在、KMC最年長部員だそうです(実はPasta-Kさんのプレゼンテーションの際もちょくちょく登場されていました 笑)。
上原先生はご自身の活動分野である情報セキュリティ、そして、今さまざまな場面で注目を集めるプライバシーについて解説を行いました。
まず、TechLIONでも過去1つのテーマとして取り上げた“情報セキュリティ”について。これは、自社の情報を奪いに攻めてくる(攻撃される)ことに対してどのように防ぐか、対策を考えることが大事。その際、「現在のインターネット社会では開発者の無知も問題になりうる時代になっていて、対策がきちんとできていないことが損害賠償の対象になりうる」と上原先生は説明しました。
法律上ではそうなっているとは言うものの、「それでも事故は起きるもの」というのが上原先生の持論。なので、事故が起こらないようにするのと同じように、事故が起きたときの対策、動き方を考えておくことも大事と力説しました。
さらに力強く語ったのがプライバシー問題。この件について上原先生は「マイナンバー問題、皆さんはどう思っていますか?」と会場への投げかけから始めました。マイナンバーの詳細については関連文献や資料をご覧いただくとして、この10月から、事業内容によっては必ず扱うデータになります。
ここで上原先生は「多くの人が誤解しているのが、マイナンバーの漏洩問題。マイナンバーそのものはIDであり、単なる番号。だからこれだけが漏れることについては実は危険ではないんです。それよりも危険なのは、マイナンバーに紐付けられた(個人情報など)他の情報。現状は“マイナンバー”という単語だけがひとり歩きしているのです」と、各種報道や周囲の環境が生み出してしまった誤解について、改めて専門家としてのコメントを述べました。
その上で、「マイナンバーはプライバシーを扱う可能性があるため、個人情報およびセキュリティとは別物として考えなければいけない」と説明しました。どういうことかというと、「(個人情報の)セキュリティは、企業や組織にとっては防衛するもの。なので、そこに関わる人全員の目的や意識が同じ方向に向きやすいです。しかし、プライバシーは個人の尊重であり、個人の権利となります。そのため、人それぞれ価値観や意識がバラバラ。マイナンバー制度ができることによって企業や組織はそれらをどうまとめるか、それが難しいのです」としました。つまり、守るべきものと(多様性を)認めるものの違いをきちんと意識して扱わなければならないということです。
最後に上原先生は「エンジニアというのは一般人から見れば魔術師(のように見えます)。ですから、何をしているのか信用を得るためには、(ただつくったり技術を磨くだけではなく)何をしているのか、何のためにやっているのかを説明することが大切ですね」とエンジニアの心得を述べ、発表を終了しました。
インターネットを通じた人と社会のつながりが見えたvol.22
以上、四名によるプレゼンテーションがあっという間に終了しました。今回、具体的なテーマを決めない形で(強いて言えば京都という土地)構成したTechLION。一見バラバラのように見えたかもしれません。しかし、振り返ってみると、学生からの情報発信、地場の企業とITへの貢献、コミュニティ、個人としての関わりとエンジニアのあるべき姿などなど、何か一本の軸が見えたのではないでしょうか。それは、インターネットを通じた人と社会のつながりです。この先、ますます技術が進化し、社会とインターネットが密接になることが予想される中、エンジニアとしてはもちろん、その中の社会の一員としてどうあるべきか、古都京都で気づきの得られた時間になったように思います。
改めまして、スピーカーおよび参加者・聴講者、スポンサーの皆さん、ありがとうございました。
さて、次回TechLION vol.23は10月に東京で開催予定です。テーマは今回の流れにも通ずる「10年後の生活を支える最新IT動向」。まもなく詳細情報を発表しますので、お楽しみに!