vol.16報告(1/2)―21世紀をどう作るか、僕らは考えなきゃいけない

おかげ様で三周年
おかげ様で三周年

TechLIONの始まりは今から三年前、2011年3月でした。震災直後、電力不足等で首都圏もまだ混乱が治まらぬ中とあって、こんなことやってる場合なのだろうかと葛藤もしました。しかしこんな時代だからこそ、エンジニア達はより一層連帯を深め、希望を見い出すと共に世の中の力になるべきなんじゃないか、との想いから敢行したのでした。おかげ様で3周年。これからもIT業界に生きる獅子達に力をわけてもらいながら、連帯を深める手伝いができれば、と思います。

ということで2014年のTechLION一発目(vol.16)が、3月5日、いつもの六本木SuperDeluxeで開催されました。本日はまず第一部の模様(注1)をお伝えします(後半戦の第二部は次回しますのでお楽しみに)。レポートブログは、引き続き取材班まつうらが担当させていただきます。

(注1)当日の全セッションの模様の録画(第一部#1第一部#2第二部#1第二部#2エンディング)を公開しています。(撮影協力:日本仮想化技術様)

■第一部 獅子王たちの夕べ(江崎浩先生)

江崎浩先生今回、前半戦のゲストはWIDEプロジェクト代表の江崎浩先生。

トークはむちゃくちゃ面白く、割愛するには勿体無いので全部紹介したいところです。が、そういうわけにもまいりませんので、披露されたトークのいくつかのシーンを、より抜いてご紹介します(時間があれば是非録画の観戦を)。

20世紀の設備はアナログで高かった

何の話をしようか考えたんですけど、今やってる遊び(研究)の話をします。

この会場も20世紀の設備ですよね。マイクやスピーカーは有線だし、アナログの塊。でもうち(大学)のビルの中にはWi-Fiの無線のマイクとか入れてるんですよ。音が微妙に遅れるんですけどね。それから、デジタルにしているからタブレットで全部コントロールできるんですよ。

21世紀のスピーカー
スピーカーを多数並べ、それぞれの位相と振幅を調整すれば、特定の位置の人にだけ聞かせることも可能

これ(右写真)はYで始まってAで終わる浜松の会社で遊ぼうとしている話なんですが。スピーカーって、いっぱい並べて位相と振幅をコントロールすると任意の音の形を作れるんです。例えばこの会場にスピーカー並べてちゃんとコントロールすれば、法林さんの耳にだけ聞こえる音を作ったりできます。20世紀のカンペって司会者が見なきゃいけないじゃないですか。だけど21世紀のカンペは本当に耳に入ってくるんです。

なんでこういうことを始めたかっていうと、僕がビル改装の時に責任者やってたんですけど、色々請求書見るでしょ。すると、頭にくるくらい高いんです。まずオーディオね。21世紀のコンピューターって安いじゃないですか。10万円しないでしょ。なのにオーディオなんてアナログの塊だから滅茶苦茶高くて、なんとかならんもんかと。それで全部デジタル化したいなあと思ったんです。そして、こういうのをやっているうちにどんどん侵略したいところが見えてきて、今、楽しい時代に来ているんです。

データセンターこそ節電の鍵

ビルの設備をデジタル化
各種ネットワーク技術を活用して建物の設備をデジタル化し、Webでのコントロールを実現

マイクロソフト品川グランドセントラルタワーオフィス。あそこのビルはサーバールームがないんですよ。引っ越してきた時にサーバーは全部Azure(クラウド)に持って行ったんです。だからサーバールーム作るコストがゼロ。熱が出ないので空調コスト下がるし、電気代も下がる。よそへ引っ越す時の原状回復もめちゃくちゃ安くなるわけです。クラウドを使う理由が一般的な目的とは全然違っていて、これで社会インフラを作るみたいな話をもう始めているんですよ。実は3.11の時、東大は30%節電するというのを宣言しちゃったんです。30%落とせということは、暑い部屋で仕事しろということなんですよ。そんなの嫌だから本当は大っ嫌いなクラウドコンピューティングをやって……。したらね、70%くらい節電に成功しちゃって。

そのデータ持って東京都の環境局行ってきたんです。彼らは、毎月6%ずつ節電できないとペナルティとか言ってるじゃない。そうすると大体いじめられるのはコンピューター屋なわけです。データセンターって顧客が入るとどんどん電気代増えるでしょ。だから毎月6%節電なんて不可能なわけですよ。でも、さっきのデータを元に、「客が増えれば増えるほどオフィスの電気代が減る」っていうのを教えてあげたので、例外規定を作ってくれた。それまで敵だったところが、突然味方になってくれたわけです。

江戸の街と東京オリンピック(1964)の成功に学ぶ

運河が江戸を機能させる
運河の整備によって、江戸、そして東京という都市は機能してきた

話が飛んじゃうかもしれませんが、最近見ているのはこれ(右写真参照)です。江戸の街がどうしてちゃんと機能したかというと運河をちゃんと作ったからなんです。これがインターネットに通じるんですが、運河というひとつのインフラが三つのファンクションになる。一つがディフェンスで江戸城を守るための堀。次がロジスティクスで、物流のための水路。もう一つが上下水道。これらが兼ねられたので東京は今でも機能している。1964年の東京オリンピックの時にはこの運河を利用して高速道路が作られたわけで、つまりオリンピックが開催できたのも東京に運河があったから。じゃあ、次の21世紀はどう作るかっていうのを今、僕らは考えなきゃいけない。

そこで、エネルギーのフローと物のフローとをどう作っていくかってことを考えてます。エネルギーのフローで今面白いことが起こっていて、発電設備が分散化し始めたじゃないですか。さっきのマイクロソフトの話にも繋がりますが、データセンターに水素発電機やコージェネレーターを置いて、発電所にしたら面白いんじゃない?って話ですよ。普段は電気をくべて熱出して、それから熱は冷媒としても使えるので、そこを地域の熱システム、エネルギー、そして情報の拠点にしてしまったり、ってね。それも、洋上データセンターで。火力発電して海水で冷やして、ここにサーバーいっぱい置いて……。次のオリンピックに向けて、晴海の沖に浮かべてパワープラント作っちゃうなんていうのもありえない話じゃないんです。

◇ ◇ ◇

先生が披露した数々のトーク。何が面白いかといえば、デジタルによって驚くべき進歩を遂げた21世紀のICT技術を携え、これまでありがちだった異業種の神経系(お手伝い的な仕事)のみならず、筋肉系(業務の本質的部分)にまで入り込んでその構造を変えてしまわんとする、数々のアイデアですね。トークの中で、

皆さんは暗い顔して仕事せずに、
ほかの業界で成功できる可能性がめちゃくちゃあるということなんです。

と、おっしゃっる場面がありましたが、その言葉にはとても現実味を感じました。私も建設業界に片足を突っ込んでおりますが、業界特有の課題を、21世紀の発想で解決したいと思いました。

ありがとうございました。ということで次回(後半戦レポート)に続きます。