ゼネラルマネージャーの法林です。
TechLION vol.34 with tech@サイボウズ式「エバンジェリストのお仕事」を、9/10(月)にサイボウズ東京オフィスにて開催しました。満員の…とはいきませんでしたが、皆さんご来場ありがとうございました。今回、自分で言い出して試合を組んだ手前、試合の模様をレポートとして書き残さなければという気持ちになり、がんばって書いてみました。ごゆっくりお楽しみください。
第1部:皆さんどんなことをやってるの?
第1部は、出演者の皆さんの自己紹介に加えて、個別に話題を振って話をうかがいました。順番に紹介します。
カルチャーエバンジェリストって何する人? 櫛井優介さん
まずはLINEでカルチャーエバンジェリストという肩書を持つ櫛井優介さん。TechLIONは2011年に一度出演していて2回目の登場ですが、前回はYAPC::Asia Tokyoの運営スタッフとしての出演だったので、立場を変えての再登場です。2004年にライブドアに入社してから転職していないのに社名がNHN Japan→LINEと変わり現在に至ります。カルチャーエバンジェリストの役割は、LINEという企業を外部に知ってもらうことや、会社の開発スタイルや文化を伝えることです。ちなみにこの肩書は自分で付けたのではなく上司に付けられたそうです。
また、近年はLINEの人が外部で講演する機会が増えましたが、それについて櫛井さんは「昔はプロダクトをちゃんと作ることが先という意識が強かったのでなかなか外に出ていけなかったが、外部から『LINEって何をやっているのかわからない』と言われることへの反省があり、2014年ぐらいから積極的に社外に出るようになった」とコメントしました。ちなみに櫛井さんは技術イベントに登壇する社員の推薦や社内交渉も担当していて、社内ではそれを「なまはげ」(櫛井さんがこわいのでみんな黙って言うことを聞く(笑))と呼んでいるそうです。
講演だけで毎年50試合! 横田真俊さん
次はさくらインターネットの横田さん。「さくらのVPS」「さくらのクラウド」の責任者に加え、エバンジェリストチームの責任者も務めています。エバンジェリストチームのミッションは「さくらのファンを増やすこと」で、2年前に立ち上げて現在は7人で活動しています。(余談ですが筆者もその一員です)
横田さんがエバンジェリストになったのはさくらのクラウドの立ち上げ期で、エンジニアが外に出たがらないので自分で担当するようになったとか。以来、毎年50試合ほどの講演を務めています。社内でも一番多いのでは?と聞くと、一番多いのはたぶん社長の田中邦裕さんで、横田さんは3番目ぐらいだそうです。そして試合にもいろいろあり、サービス紹介などは資料を使い回せるので困らないのですが、専門外のテーマでの発表依頼に対応するのが大変なようです。
エバンジェリスト界の仕事人! 中津川篤司さん
3番目はMOONGIFTの中津川さん。エバンジェリスト業務を代行で受ける仕事をしています。また、エバンジェリストやDevRel(Developer Relations。自社製品/サービスと外部開発者とのつながりを作る活動)に携わる人々のコミュニティ・DevRel Meetupを主宰しています。まさにエバンジェリスト界の仕事人と言ってもよいでしょう。
DevRel Meetupは、DevRelという単語がIT業界にまったく知られていなかった4年前から始めたものですが、活動の成果で認知度も上がってきました。会合は毎月テーマを変えて開催していて、登壇者や会場の交渉は中津川さんが担当し、当日運営は他のスタッフがやっています。
また、中津川さんのブログは技術記事が毎日更新されるのですが、これは2日ぐらいで1週間分(14本ぐらい)を書いてしまい、それが順次公開されるのだとか。その他にもウェブメディアなどに多数の記事を書いていて、その書く量とスピードには驚かされるばかりです。記事を早く書くコツを聞いたところ、「先に考えるのは起承転結だけで、あとは出だしに合わせて書いていきます。誤字チェックはしますが推敲はあまりしていません」という答えが返ってきました。
エバンジェリストはピン芸人! 大森彩子さん
最後はマイクロソフトでAzureのCognitive ServicesなどAI関連のエバンジェリストを務める大森さん。大森さんも同社に14年ほど在籍していて(偶然ですが今回の出演者は在籍年数の長い人ばかりでした)、入社当時からエバンジェリストという役職はあったそうですが、最初の頃は認知度が低く、社外でエバンジェリストと名乗っても「それ何?宗教?」みたいな言われようだったそうです(エバンジェリストは「伝道師」のような意味合いの単語です)。
マイクロソフトには20人ぐらいのエバンジェリストが在籍していて、各自それぞれに担当サービスを持って活動しています。会社からも得意領域を持つように言われているばかりか、「エバンジェリストはピン芸人だから」とまで言われているそうです。また、多くの社員の中からどういう人がエバンジェリストになるのか?と聞いたところ、新しい製品をどうやったら使ってもらえるかがエバンジェリストのミッションなので、そういうことを伝える素養のある人が選ばれているとのことでした。
第2部:エバンジェリストにいろんなこと聞いてみた!
休憩をはさんで第2部は、エバンジェリストに聞きたい話をMC側でいくつか用意し、それをネタに出演者の皆さんとフリートークを展開しました。
エバンジェリストの定義
最初の質問は「あなた/会社におけるエバンジェリストの定義は?」。会社によってかなり異なるのでは?という予想のもとに出した質問ですが、回答はこんな感じでした。
- 外に話をしに行く人だけど、単に話すだけでなく相手のLINEに対する価値観を変えるのがミッション。(櫛井さん)
- ファンを作るのがミッション。技術が好きで会社も好きという人を選んでいる。(横田さん)
- プリセールスに近い活動。知ってもらって使ってもらうのが目標。サービスのステージや会社の目標によってやるべきことは変わるので、請負先ごとに業務内容は異なる。(中津川さん)
- 若いユーザにとっては『会いに行けるマイクロソフトのエンジニア』という感覚らしい。特に大企業の場合は、エンジニアが目の前にいて直に質問できるのはユーザにとって貴重。(大森さん)
全体的に見ると、傾向としては似ているようにも思いますが、それでも目標やミッションは少しずつ異なるようです。でも中津川さんのコメントにあるように、サービスや会社の目標によってエバンジェリストの業務内容は変わるので、そうだとすると当然とも言えますね。
エバンジェリストの楽しみとつらみ
次の質問は「エバンジェリストの楽しみとつらみ」。これはいろんなコメントが出たのですが、つらいことの1つに挙げられたのが「移動」。エバンジェリストは各地に出向いて講演する機会が多く、最初のうちは旅行気分で楽しいのですが回数を重ねると苦痛になるという話です。関連して「移動中に講演資料を作るか?」という質問もあり、これには櫛井さんのみ「作ってから乗る」、他の3人は移動中に資料作成やコーディングをしているそうです。「新幹線に乗っているとネットが中途半端に切れるので資料が送れなくて困る」(櫛井さん)というコメントもあり、インフラの進化もエバンジェリストにとってはいいことばかりではないようです。
そんな苦労もありますが、エバンジェリストの楽しみとして「いろんな人に会える」(櫛井さん)「客がサービスを使い始めてくれるのがうれしい」(大森さん)「プレゼンしてもいいし文章を書いてもいいしコードを書いてもいいので仕事がやりやすい」(横田さん)「いろんな新しいサービスに関わることでレベルアップできる」(中津川さん)といった回答もありました。「1年後もエバンジェリストを続けたいですか?」という質問には全員が「続けたい」と回答。やり甲斐のある仕事であることをうかがわせました。
会社の看板背負ってる?
次の質問は「会社の看板を背負ってるとか会社の顔みたいな感覚ある?」。エバンジェリストは外部からそのように見られがちな職種ですが、当人たちの感覚を聞いてみました。
- 仕事をもらっている立場上、ヘタなことはできないので、社員エバンジェリストよりもむしろ看板背負ってる感は強い。(中津川さん)
- 看板を背負ってる感はあるが、顔という感覚はない。CEOは顔がすぐ浮かぶ人が多いけど、エバンジェリストはそういう人は少ないと思う。(横田さん)
- 看板背負ってるとか顔という意識はないけど、フォロワーは多いので変なことはそもそも言えない。LINEのエンジニア文化の代表と思われているという意識はある。(櫛井さん)
総合すると「エンジニアにとっての会社の顔がエバンジェリストである」(馮さん)ということのようです。
また、櫛井さんと横田さんからは相次いで「社外よりもむしろ社内の人が自分の投稿を見ていて、社内slackに引用されたり、内容についてツッコミが入ったりする」というコメントがありました。ここから派生して、SNSの使い方で気をつけていることについてもお聞きしました。「個人アカウントのサブアカウントは持たない」(櫛井さん)「自由に書きたい話は仲間内だけでやってるマストドンに書く」(横田さん)「facebookはグループとメッセージのみ利用」(中津川さん)など、それぞれ工夫されているようです。「エバンジェリストは顔が知られているのでSNSで暴言や誹謗中傷を受けることがある。対応ガイドラインもまだ整備されていないので経験で対応するしかない」(大森さん)という問題もあるようです。
エバンジェリストって誰でもできる仕事?
この他にもいろんな話題が出たのですが、特に筆者が聞きたかったのが「エバンジェリストは誰でもできる仕事なのか?」でした。「わかりやすく伝えるのは向き不向きがあると思う」(櫛井さん)「テクノロジーに対する熱さとかモチベーションのある人が向いている」(大森さん)という答えがある一方で、「スタートアップの小さい会社はエバンジェリストを雇う予算はないので全員でやるしかない。そういう意味では、本当は社員みんながやらなきゃいけないこと」(中津川さん)という回答もうなづけるものがありました。
また、これに関連して中津川さんからは「エバンジェリストって、コードが書けてブログが書けてプレゼンもできるスーパーマンなんだから給料は高くあるべき。でもそれだと日本の会社では雇えないので、そこからMOONGIFTの仕事が始まった」という話がありました。しかし出演者の皆さんは会社からエバンジェリスト手当などはもらっていないという話をしていたところ、ある参加者からの「私の勤務先は登壇手当があります」という発言に出演者一同大興奮! 今すぐオレを雇ってくれと言わんばかりの反応はちょっと笑えました(笑)。
おわりに 〜大切なのは話術ではなく熱量〜
こんな感じで大いに盛り上がったフリートークもあっという間にタイムアップ。エンディングで行われた参加者プレゼント抽選会では、LINEからご提供いただいたClova(!!)もプレゼントしました。櫛井さんありがとうございます!
今回はエバンジェリストの集まりということで、話すことは慣れているであろう方々なのでその辺の心配はしてなかったのですが、自分の中の高い期待値をさらに上回るトークセッションができたように思います。これもひとえに出演者の皆さんのおかげです。本当にありがとうございました!
そして、エバンジェリストというと「イベントで講演する人」というイメージを持っている人が多いかと思いますが、講演は製品やサービスを説明する手段の1つに過ぎません。ブログや書籍など文字で伝えたり、もっと今風の手段としてはYouTuberのように映像で伝えるとか、その他の表現方法もあるでしょう。そこで大事なのは話術やスライドの作り方といったテクニックよりも、自分が伝えたいものをいかに「これは良いものですよ」という気持ちや熱量を込めて伝えられるかであることに、トークセッションを通じて気づかされました。プロレスでも技よりも気持ちが大事とか言ってるのをときどき耳にしますが、それと同じことかもしれません。自分にとっても学びの多い試合になりました。この試合を組んで本当によかったです。
次回のTechLIONは、12月か1月ぐらいに開催できればと考えています。とは言うものの、まだ何も企画を立てていないので、そろそろ馮さんと飲みに行くか(爆)。試合が決まりましたらアナウンスしますので、ぜひ遊びに来てください!
付録
イベントの写真や動画を公開しています。会場の雰囲気を感じてもらえたら幸いです。