TechLIONプロデューサーの馮です。こんにちは。
気がついてみたら2025年もあと2週間を切ってしまいました。あれ?今年のTechLIONはと思われた方、忘れられてしまったかもしれませんが、半年前の6月24日にvol.41を開催しております。
が、vol.40に引き続き、遅筆となり、公開のタイミングがとても遅くなってしまいました。関係者の皆さま、すみません。
とは言え、2025年のことは2025年のうちということで、改めましてvol.41の報告をさせていただきます。
コミュニティの終活
vol.41のテーマは「コミュニティの終活」。
今回、終活を選んだのは、MC2人もそうですし、これまでずっとコミュニティに関わってきた多くの方たちが歳を重ねることで、コミュニティの存在がどうなるのか、2024-2025年は多くのOSSコミュニティやユーザグループが誕生してから20年~25年を迎えるタイミングに、一度話してみたいという気持ちから浮かんだテーマです。
そして、終活となると言葉の意味からもネガティブだったり、クロージングに向けた話題になりがちではありますが、TechLIONというコミュニティで開催することで、継続してきた人たちが何を思い、そして、過去の振り返りや今だけではなく、未来についても話せるのではないかと思い、法林さんに提案して開催させてもらいました。

やり残した思いを埋め、区切りをつけること~YAPC::Japan @kobaken
トップバッターは、kobakenさん。
kobakenさんはYAPC::Asia 2013からボランティアスタッフとしてYAPCに関わり、YAPC::Japanに変わってからは、YAPC::Tokyo 2019、YAPC::Japan::Online 2022、YAPC::Hiroshima 2024の3つのYAPCのリード、また、イベント直前まではJapan Perl Association(JPA)の理事として、Perlコミュニティにさまざまな形で関わってきました。
冒頭に「日本のYAPCは10年前に一度終わった。Perlは死んだと言われて長い。けれど、今もYAPCは愛されていることを自慢したい。」と、YAPC愛に溢れるコメントからセッションをスタートしました。
まずこのコメントの背景を紹介すると、もともと日本のYAPCはYAPC::Asiaという形で、JPAが組織化される前から多数のPerl Mongers(Perlエンジニア)たちが主導して、イベントの形として開催されてきました。
そして、2015年のYAPC::Asia Tokyo 2015の開催を機に、YAPC::AsiaとしてのYAPCは終了しました。しかし、その後、YAPC::Japanという新たな名称のもと、東京での開催をはじめ、日本各地で開催され今に至っています。
また、Perlという言語自体も、インターネット黎明期、CGIなどのWebアプリ開発用の言語で多くの開発者が利用し、さらには日本でmixiが登場した2004年頃は、そのmixiをはじめ、当時のライブドアの各種サービス、CMSを牽引していたMovable Typeなど、プラットフォームやミドルウェア、いわゆるサーバサイド言語の主流としてPerlが存在し、エンジニア界隈においても非常に存在感のある言語でした。その後、各種言語の普及や新言語の登場により、Perlの存在感が薄れてきている、ということをふまえたコメントではないか、と補足させていただいます(kobakenさん、違っていたらすみません(^^;。
ただ、それでもYAPCという存在は2025年の今もあり続け、先日11月には福岡で最新のYAPC::Japan Fukuoka 2025が開催されています。
こうした長い歴史の中での、イベントコミュニティ、言語コミュニティの存在感や価値観の変化の中でも続いてきた話を、実体験を交え、お話しいただきました。
そして、kobakenさんが発した言葉の中でとくに印象的だったのが「(コミュニティの終活とは)やり残した思いを埋め、区切りをつけること」というメッセージ。YAPC::AsiaからYAPC::Japanへのアップデートがまさにそれであり、今後も、区切りをつけていくことが終活としての1つの形なのではないかとまとめました。
もちろん、区切りがついて終わるかどうかというのはまた別の話であり、それが今のYAPC::Japanのカタチにつながって続いている、その本質がわかる発表となりました。
あまり深く考えずに続けた先にあるもの~日本MySQLユーザ会 @sakaik(坂井 恵)
続いて、坂井さん(sakaik)による日本MySQLユーザ会(MyNA)の運営の立場からの、終活の話。
坂井さんは一転して、「最初馮さんからお声がけいただいたときは、終わりそうなコミュニティだからじゃないか」なんて、ちょっと自虐的なシャレのコメントも交えて、楽しい雰囲気のプレゼンがスタートしました。
坂井さんは、ユーザ会(コミュニティ)を「しっかり運営型」「のんびり運営型」の2つのラベルに分けて説明し、「MyNAは後者(のんびり運営型)です」と、良い意味でリラックスした状態で運営されていることを紹介しました。そのため、運営するうえで重要な経済面(費用の確保)についても、運営するために集めるのではなく、お金をかけない範囲でやれることをやる、というアプローチで続けてきたそう。
一方で、のんびりだから雑という話ではなく、コミュニティに対して、内向き・外向きがある中でのMyNAの意義を運営の立場から紹介し、「MyNAの場合、立ち上げ当時からいるメンバーが今も中心となって運営し、存在しています。2025年の今年、MyNA20周年、そして、MySQL25周年の記念イベントが開催されました。代表のとみたまさひろさんをはじめ初期メンバーもほとんど変わらず、そこに新しいメンバーも加わっていますが、スタンスとしては“あまり深く考えていない”というのがMyNAの1つの本質かもしれません」と、継続や終了、そういったことに対して強く向き合いすぎず、コミュニティに関わる人たちが肩肘を張りすぎない状態で、コミュニティが続いている理由について、分析・説明しました。
その他、課題として、運営陣の高齢化、運営側の負担増など、おそらく他のコミュニティでも同様に持っている点について指摘しつつ、「MyNAがいきなり終わるわけではないですし、続けていくことがそのまま終活に重なるかもしれないです」と、20年続いたコミュニティに関わっているからこその、説得力のある話で発表を締めくくりました。
パネルディスカッションで「コミュニティ論」
ゲスト2名の発表の後は、法林さん・馮を交えた4名でのパネルディスカッションがスタート。今回もあらかじめいくつかのテーマを用意して、ゲストや会場に選んでもらって話をするフォーマットで展開しました。

まずは、「文化とスキルの継承(代替わり)」という、それぞれの立場で、参加しているコミュニティにおいての現状について話をしました。MCの法林さんは「自分の話で言えば、自分より上の代は代替わりができていると思うが、自分の代はできていません。自分がそういうの(代替わり)が下手なので苦笑」と、まさに今悩んでいるという話をしたうえで、MCから「その点でYAPCって代替わりがうまくできている印象」と話を振ると、kobakenさんは「プレゼンでも話したとおり、AsiaからJapanへの移行が、ある意味強制的に代替わりを促進した面がある」と、コメントされました。まさに区切りを付けることで、先につながる実例と言えます。
また、会場からは「大事なのはそのコミュニティのテーマ、技術が盛り上がっているかどうか。それがあれば、コミュニティに新しいメンバーが加わる可能性が高いのでは」という意見があり、登壇者はうなずいて納得していました。
その後も色々話が進む中、最後に、坂井さんから「そもそも終活という観点で、コミュニティを残す“べき”なのか」という、今回のTechLIONのテーマの根本に関わる投げかけがありました。
これは話を聞いてハッとしましたが、もともとMCサイドが「コミュニティの終わりに向けて」という立ち位置からスタートし、ゴールへの向かい方とコミュニティの残し方というアプローチで議論が始まったことがあるため、ゴールとして終了(閉じる)を考えてイベントを設計していました。
坂井さんの投げかけはその前提を覆すものではあるものの、非常に大事な視点です。
そして、kobakenさんのプレゼンしかり、また、坂井さんからのご指摘しかり、コミュニティの続け方・区切りの付け方は、多種多少で、もしあるコミュニティが結果として自然に消滅することがあっても、それも1つの終活であり、それを無理に残す必要はないという話になるのではないか、と、話を聞きながら僕は感じました。
今回のTechLIONは、コミュニティの終活というテーマでしたが、全体を通じて「コミュニティとは何か。とくに日本におけるその存在が生まれ始めた90年代後半から現在までの間にどう移り変わって、今はどう捉えられているのか、これからはどうなっていくのか」といったような「コミュニティの本質」について語り合える場になったと感じています。
TechLION vol.41 事後メッセージ
最後に、ゲスト2名からイベント終了後にメッセージをいただいたのでそちらをご紹介いたします。
「人は、楽しそうにしているところに集まる」by 坂井さん
今回、「コミュニティの終活」ということで、初めてTechLIONに登場させていただきました。当ユーザ会終了の予定があるわけではないのですが、終わらせる事と続ける事は表裏一体でもあるので、あらためてユーザ会を続けるとはどういうことなのかについて、多くを考える機会となりました。
会場にはコミュニティの運営や参加の経験が深い方も多く来られていて、活発に意見を聞かせていただける素敵な空気感でしたね。MCの軽快なテンポがこの雰囲気を作っているように感じました。YAPC運営の歴史や苦労をはじめとして皆さんの話ひとつひとつに大きく頷首しました。
中でも「人は、楽しそうにしているところに集まる」という会場からの指摘には、はっとさせられました。コミュニティの盛り上がりの本質を突いたもので、この言葉に出会えただけでも私を含め、参加して良かったと感じる人も多かったのではないでしょうか。今回の機会をいただき、ありがとうございました。
「“終活”をテーマにしながら、まったく終わらせる気はない」 by kobakenさん
貴重な機会をありがとうございました!「終活」というテーマは、過去登壇させていただいたテーマの中で随一の難しさで、イベント後もなお頭を巡っています。流石のTechLION。参加されている方の熱量も高く、最高の時間でした。
懇親会でお話していて、あらためて気づいたことがあります。
人は、より良い人生のため「終わり」から逆算して考えることはありますが、技術コミュニティにその発想は合わないと思いました。
むしろ、人の寿命を超えうる存在かもしれないと感じました。もちろん実際問題、簡単な話ではないと重々承知していますが、人の寿命を超えた技術コミュニティが出てきたら面白いですね! その頃には、私たちが生きているかどうかもわからないですが😄
「終活」をテーマにしながら、まったく終わらせる気のない登壇者ですいません。改めて、坂井さん、法林さん、馮さん、参加者の皆様、対戦ありがとうございました!YAPC::Fukuoka 2025 または、どこかの現場でまたお会いできたら嬉しいです。
そして、TechLIONの終活はどうなる?
YAPC::Fukuoka 2025で再会
まとめです。TechLIONの終活――これについては、なんとも言えないですが、法林さんからは「まずはブログを書いてから笑」というご指摘コメントを直接いただき、急いで今書いている状況です大汗(もう冬至が目の前)
ちなみにそのご指摘コメントをいただいたのが福岡、そう、YAPC::Fukuoka 2025の懇親会場でした。
先ほどのkobakenさんのコメントに「YAPC::Fukuoka 2025 またはどこかの現場で」というのをまさに実現したわけです。本当なら、先に報告エントリを発表して、みんなで「あのとおりになりましたね!」と再会したかったのですが、結果は……あれ?笑
まあ、でも再会できたのは事実ですし、せっかくなので改めて4人で写真を掲載させていただきます。

以上、TechLION vol.41の終了報告+αでした。
今回、さまざまな立場、キャリアで長年コミュニティに関わっている人たちだからこそできるトークが展開できたと思いますし、これこそがまさにTechLIONが求められているものではないか、そして、それが求められ続けている間の活動が、もしかしたらTechLIONの終活なのかもしれないという個人的な感想で、締めくくらせていただきます。
「もういくつ寝るとお正月~♪」という歌が聞こえてきそうな時期ではありますが、皆さま、体調管理にはお気をつけて良い年末年始をお過ごしください。
そして、次回TechLIONについては、どこかでまた発表があるはずです。お楽しみに!